これが私です。ポール・スミス展

仕事部屋
展示会場−1

上野の森美術館で開催された「ポール・スミス展」に行ってきました。
ポール・スミスは言うまでもなく、
イギリスを代表するファッションデザイナーです。
そのデザイン傾向がすぐに思い浮かばないとしても、
同名のブランドのシグネチャーデザインとも言える、
マルチカラーのストライプをモチーフにした財布などのファッション小物は、
日本でもポピュラーなアイテムではないでしょうか?
ポール・スミスは70年代中期に、イギリス中部の都市、
ノッティンガムに小さな小さなセレクトショップをオープンしました。
徐々にオリジナルを作りはじめて人気を博し、
80年代には東京やニューヨークにも進出しました。
伝統的な英国スタイルのジャケットで、
裾部分が異素材に切り替えてあったり、
身頃や袖全体に大胆な花模様の刺繍が施されていたりと言った、
彼ならではのスタイルで注目を集め急速に売上を伸ばして行きました。
その世界的な活躍を評価されて94年にはエリザベス女王から勲章を授与され、
さらに97年には若きブレア首相のスーツを担当、
当時世界中の若者に影響を与えたイギリスのアートやデザイン、
音楽などを総称したクール・ブリタニアムーブメントの立役者でもあります。
現在は日本のビジネスマンにも愛用されるブランドだけに、
花柄や写真プリントもスーツの表地ではなく裏地に使われている状態ですが、
遊び心はそのままという気がします。

そんなポール・スミスは、コレクターとしても知られています。
今回のポール・スミス展は、コレクションも少しは展示されていますが、
メインは彼が集めた絵画やポスターはじめ、腕時計、自転車、
日本の食品サンプル(おなじみのフォークが宙に浮いているスパゲッティ)
ほかさまざまなアイテム。
中には、彼のコレクション好きを知っているファンたちが、
郵便で送ったモノまで切手を貼られたままで展示。
インドぽい象の置物や怪獣、夜店にありそうなビニールのイカ、
ボーリングのピン、コオロギやバッタの置物、などなど。
絵画は泰西名画と言ったものから50〜60年代のポップな様式で描かれた、
スタイル画ぽいもの、本人やほかの人が撮った写真、
モダンアート的なものから子どもの落書き、広告、雑誌の切り抜き、
海外のおみやげの包装紙などなど、
もう本当に種々雑多なものが額装されて展示されています。
物集めっぷりに共感を覚えつつ、
さぞや保管場所に苦労されているのでは? と、そこにも共感。
また、再現されている彼のオフィスもモノだらけ。
今、日本の一部ナチュラル志向派の間では空前の
「モノを持たない暮らし」ブームですが、
そのムーブメントに乗りきれないモノマニアな私としては、
「おお、同志よ!!」という心境で見せていただきました。
彼の仕事部屋に続いて再現されているアトリエで、
スタッフが使っているパソコンは最新のMACですが、
ポールの仕事場に置いてあるのは初代 iMAC。
90年代後期に登場したオールインワン型パーソナルコンピューターで、
曲線を活かしたデザインとブルーやオレンジなどの
カラフルなカラリングで一世を風靡した名機です。
我が家の押入れにもまだあり、
手放すことが出来ないのはポールと同じですが、
まさか、これ、現役で使っているわけじゃないよね?
とにかく、見ていて楽しい展示会です。
タイトルの「HELLO! MY NAME IS PAUL SMITH」というのも、
いかにも彼らしいと思います。
彼はパーティーや何かの集まりに出向くと、世界的なデザイナーであるのに、
無名の若者や誰だかわからない人にも自分から気さくに話しかけて
「HELLO! MY NAME IS PAUL SMITH,I’m a fashion designer」と、
自己紹介をするのだそうです。
そして思い出すのは、2011年3月のこと。
東日本大震災後の原発事故の問題から、観光客はじめ外国人の方々が、
東日本エリアから続々脱出、関西や国外へと避難して行きました。
来日を中止したアーティストもたくさんいました。
その中でポール・スミスは急遽来日し、
日本国内のブリティッシュ・カウンシルの責任者と
you-tubeに動画をアップ。
「日本は安全です。変わらず躍動しています。
日本でのビジネスを考えていた方、
今こそぜひ、日本に来てください!」
と声明を発表。日本のためにひと肌脱いだ形ですが、
これも彼一流のビジネスセンスなのでしょう。
モノと人をこよなく愛する、その情熱でビジネスを進めていく。
そのスタイルが多くの人を惹きつける要因だと思います。
そういえば、you-tubeに登場したときの第一声も、
「HELLO! MY NAME IS PAUL SMITH,I’m a fashion designer」
だったと思います。
数年前、日本版エル・デコとのコラボ企画で、
ポールが表参道の彼のショップ「SPACE」のギャラリーに、
椅子を展示したことがありました。
これは、ロンドン近郊の街に住む人々を、服の違いで特徴づけ、
それを椅子にデコレーションして展示するという試み。
たとえば、メイフェアという高級住宅街に住む老夫婦、
イーストエンドという、かつての低所得者居住地が
今や注目のサブカルエリアになっている街に住む若いカップル、
あるいは、郊外で子育て中の若い夫婦の4人家族などなど、
それらしい服やアクセサリーをまとった椅子が、
それぞれの地域のライフスタイルを表していて、
とてもおもしろい企画でした。
その時私は編集部から、それぞれの椅子が表す人たちに、
ストーリーをつけて欲しいと頼まれました。
たとえばイーストエンドの若いカップルなら、
夜な夜なクラブに行って、酔っ払って喧嘩になり、
彼女の方が彼氏を蹴飛ばす、というような物語を書き、
それぞれのストーリーをプリントしたパネルが、
椅子とともに展示されました。
この企画からもわかるように、彼は地域の持つ違いや特性を
とても大事にする人です。
今回の展示会には世界中で展開している、
ポール・スミスショップの写真も展示されていますが、
それを見ると国や街の個性に合わせて、
外観や内装が変えられていることに驚かされます。
ロンドンのあるショップはいかにも伝統的な
ブリティッシュなたたずまいで、
パリ、サンフランシスコ、ローマなども、それぞれ、
その街の個性や魅力を反映したショップになっています。
京都のショップは古民家を使っていたり。
直営ショップは世界共通の外観やインテリアで統一するブランドが多い中、
地域に溶け込む店作りを推進する、いわば郷に入れば郷に従え方式の、
それがポールの個性なのだと思います。
それぞれの違いを尊重しながら、それを自分のパワーや魅力に加えていく。
集めまくったほかの人達の作品で自らを表してしまう。
「Hell!I’m Paul Smith」
そして私はこれらすべてです。
と言わんばかりの、とても刺激的な内容でした。
この展覧会は世界を巡業していて、東京は京都に続き開催、
このあと名古屋に行くそうです。

館内は撮影自由なので、入場者はほとんど全員撮影していました。
写真上は、再現されたポールのオフィイス。
ポップでキッチュ、永遠の子ども部屋テイストと、
日本のアンティークの箪笥のミックス&マッチが印象的。
写真下は、彼が集めた絵画や写真のコレクション。この壁面が延々続きます。