アンチスタイリッシュにスタイルを打ち出す


連日の猛暑で「危険な暑さ」という表現を
ひんぱんに見聞きします。
熱中症で救急搬送される人の数が過去最高なのだそうです。
最高気温40℃を記録した地域もあり、もはやお風呂に入っている状態。
この異常気象は日本のみでなく、世界各地で起こっているらしく、
インドではガンジス川の水位が下がり川底が露出したり、
北極では氷が溶けてしろくまの居場所がなくなっているといいます。
えらいこっちゃ、環境保護とかなんかしなきゃ!と頭ではわかっていても、
やはり自分の体から北極は遠かった。
けれど、もう足元に、指先に、環境破壊が迫っているのを感じます。
私たちが住んでいるところは、もう以前とは違うのだと、
列島を襲う豪雨や異常な猛暑に、思い知らされる日々です。

そんな昨今、気になるのが自分のニオイ。
たとえば電車や街なかで、んぷ! と思う人と隣り合わせてしまったりするたびに、
我が身を振り返る日々。
この暑さで外を歩けば1分で汗だくですから、
そりゃあ、ぷーん、となるのも無理はありません。
どんだけクサイのか自分、と思いつつも自分ではわからないので、
折につけデオドラントシートで首まわりやらなんやらを拭き取っています。
先日、エレベーターで隣り合った若い男性は、爽やかな柑橘系の香りがしました。
汗臭さとオードトワレなどの香りが混じり合うのもナンですが、
爽やかな香りであれば涼し気な感じがします。
何かつける前に汗をよく拭き取っておく必要がありますが。

話は少しそれますが、少し前に公開された「犬ケ島」という映画。
登場人物や犬たちはすべて人形でできていて、それを少しずつ動かして撮影する、
ストップモーション・ア二メーションと呼ばれる作品です。
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』や『ダージリン急行』、
『グランド・ブタペスト・ホテル』といった、ちょっとレトロでキッチュで、
とにかく強烈に個性的&グラフィカルな作風で知られる
ウェス・アンダーソン監督が撮った映画で、
相変わらずすこぶるグラフィカルで見応えがありました。
この人の映像はただ絵的にグラフィカルというのでなく、
中心に情念のようなものや人間臭さがあるので、
デザインに血が通って肉付けされて、それがすこぶる味わい深く、
目もココロもは釘付けになりグイグイ引き込まれます。
本作のストーリーは狂犬病のようなドッグ病が蔓延したことを理由に、
猫派の市長が犬を飼うことを禁止し、市民が飼っていた犬は残らず
ゴミの島に隔離されてしまい、さらにその犬たちを屠殺する計画もあるという。
主人公の少年アタリは小型飛行機で単身島に乗り込み、愛犬を探すとともに
ほかの高校生たちと連携し、ドッグ病が実は市長の策略であることを暴き、
市長の暴挙から島や市、人や犬たちを解放するというストーリー。
第68回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞しました。
人形とは思えない繊細な表情や画面デザインのおもしろさと
ドラマティックな音でぐんぐん引き込まれる映画ですが、
舞台が日本の架空都市メガ崎市で、当然、人も日本人という設定も興味深い。
監督のウェス・アンダーソンが日本好きだから、らしいのですが、
声優にオノ・ヨーコや渡辺謙、夏木マリ、野田洋次郎(RADWINPS)、
UAと村上淳の息子、村上虹郎も出ていてそれも注目です。
そして、犬たちの声はすべて英語圏の俳優で、
それが全員おっさんぽくて、そこもまたおもしろい。
日本だったら人気の声優はみんなイケメンか、
イケメンに聞こえるセクシーボイスだったりして、
アニメを見ていてもメインキャラクターは全員、
イケメンしか思いうかばない声です。
しかもアニメといえば独特のオーバーな口調が常識ですが、
この「犬ケ島」では、冴えないおっさんしか思いうかばない声の犬たちが
ボソボソと抑揚のない口調で話しているので、それもこの映画の魅力です。
そういえばあのピーター・ラビットの映画版も、
ピーターの声はイケメンでも若々しくもない、太目のおっさん俳優が演じていて、
そちらもすこぶるいい味が出ていました。
ちなみにピーター・ラビットの日本語吹き替え版の声は千葉雄大。
少年ぽさの残るイケメンです。
西洋と東洋の価値観の違いを感じさせます。

さて、このウェス・アンダーソン監督、過去に何度か、
あのプラダとコラボで映像作品を撮っています。
ひとつは「カステロ・カヴァルカンティ(2013年)」
時代設定は1955年、舞台はイタリアの小さな町の夜。
広場に面して小さなバーがあり、屋外に出したテーブルで
近所の親父さんたちが飲んでいる。
そこにカーレースの車が何台もやってきて粉塵を上げて通り過ぎていく。
すると一台のレースカーが広場のキリスト像に衝突。
ドライバーに怪我はなかったけれど、車は駄目になってレースを続けられなくなり、
親父たちのテーブルに混ざって飲み始めたドライバー、
1人の親父が親戚だったことが判明します。
なんてこったい、俺がずっと会いたかった人だ!
というわけで、ここで事故に合わなければ親戚に会うこともなく、
偶然は必然だ、というようなことがテーマの、8分間のショートフィルム。
全体のトーンや、チネチッタというイタリアの撮影所につくられたセットが、
この監督の世界観そのものでドラマティックです。
プラダとコラボということですが、ドライバーのレーシングスーツの背中に
PRADAと入っているのみで、あとは監督のいつもの世界。
ファッショナブルでもモードぽくもありません。
それが逆に、プラダって粋な会社だと思わせます。
プラダはその後、「キャンディ・ロー 」というフレグランスのショートフィルムも彼に依頼。
さらに、2016年にはプラダ財団が運営するアート複合施設「プラダ財団ミラノ」内に
監督がインテリアをデザインした「バール・ルーチェ」がオープン。
まさに監督の、レトロ&キッチュな映画のような世界に浸れる店です。
50年代のイタリア映画界の巨匠、ビットリオ・デ・シーカなどの映像も参考にしているそうで、
ウェスのファンのみならず50年代のイタリア映画好きなら狂喜乱舞しそうな店。
2016年にはH&Mのクリスマスキャンペーンのショートフィルムも手がけていますが、
これが列車内が舞台で、監督の作品である「ダージリン急行」が
もう少しスマートになってアクが抜けた感じのビジュアル。
でも、これまたとくにファッショナブルな人やモノが登場するわけでもなく、
ファッションがファッションのみではなく、ライフスタイルであるということ、
ひとつのトレンドやアイテムだけをアピールする時代ではないということを、
これらの映像を選んだブランドが物語っています。

ちなみに、キャンディ・ローの姉妹品、
キャンディというオードトワレがうちにあったので試しに手首に吹きかけてみました。
好みのバニラ系でいい香り。と思いつつ、さて仕事しましょと思ったら。

くっさーーーーー。

くさくて仕事にならん。
まさに香害。やはりフレグランスはリフレッシュしたいときや
遊びたいときに楽しむもので、
地味な仕事には向かないとキモに命じました。

ところで、汗だくでニオイが気になるときは、
ほんの少し香りのあるデオドラントシートで汗をぬぐってみることをおすすめします。
嫌味なほど、あるいは香害になるほどキツくなく、
かすかにいい香りのするシートを使えば、
夏でも涼しげで爽やかな印象になるはずです。
暑さ厳しき折、ご自愛ください。

*写真は、「犬ケ島」のパンフレットです。
このワンコたちがどいつもこいつもクセモノ。
中央下段が主人公の少年、小林アタリ。両隣がカギを握る存在。
アタリの上がセクシーな美女犬、ナツメグ。
犬たちの前職はチャンピオンドッグや曲芸のスターなどさまざま。