春先のダンディへ

春めいてきたと思えばまた肌寒く。
みなさま、いかがお過ごしですか? 

ところで最近、コスメ関連の商品を見ていると、
メンズ用コスメが普通にあるのに驚きます。
ファンデーションとか眉ペンシルとかリップとかね。
そういえば、高校野球なんかを見ていると、超体育会系な坊主くんたちが、
眉毛だけ修正してあったりして「それ、ちょっと細すぎない?」と思いつつも、
なんか無骨な顔付きのコが懸命に眉を剃って剃りすぎちゃったりしている感じが、
微笑ましく思えてしまいます。
高校球児だっておしゃれしたいお年頃なのであります。
そんなわけだから、チマタのワカモノたちがファンデを塗ったり、
リップをつけたりするのも無理ないのかなと思いつつも、
やっぱり男はヴィジュアル系と歌舞伎役者以外ファンデ塗っちゃあかんやろと。
そうそう、一時流行った男子高校生のカチューシャとかも、違和感ありました。
あ、スカート男子というのも一時流行りました。
最近、少し見かけなくなったけれど。
そんな風にファッションの男女の境界がますます曖昧になってきています。
この前テレビを見ていたら、男性アイドル歌手が、
ジャケットの両襟に造花のコサージュを合計6コくらいつけて、
さらに模造宝石風のネックレスを幾重にも付けていて、
そのまま女の子のファッションに取り入れられるかわいさでした。
そのアイドル歌手の人はイケメンだけど決して女の子っぽくはなくて、
マッチョな男っぽい人です。
そういう人が花のコサージュをつけているという点がおもしろいと思いました。
あくまでも男のスタイルで、宝石やアクセサリーをプラスする、
そういう倒錯的な衣裳は思えば沢田研二が元祖でした。

一時期、日本のサラリーマンのスーツを
「どぶねずみ」と称していた時代があります。
グレーという色あいだけでなく、多分、
身なりをかまわない、くすんだ感じ全体を表現していたのだと思います。
昭和が終わりバブルがはじけて、団塊の世代の人たちが定年を迎え始めたくらいから、
サラリーマン全体が若返るに従って、どんどんおしゃれになってきています。
コサージュは付けないにしても、
スーツやシャツの選び方におしゃれゴコロが感じられます。
消費者の意識と同時に、スーツなどの量販店が、
スタイリッシュなものを意識して扱うようになってきているので、
そうしたものが手に入れやすい環境になっているのでしょう。
もう数十年前ですが、ロンドンの英語学校に通っていた頃のこと。
その学校はほかのヨーロッパ諸国や南米、
アジアからの生徒たちがたくさんいたのですが、
英語を勉強しにきている人たちはマジメで、
あまりファッションを気にかけている人はいなかったので、
まあ、いわば野暮ったいコたちばっかりでした。
そんな私のクラスでただ一人、ルオモヴォーグから抜けだして来たような
ファッションに身を包んでやってくる男の子がいました。
シャツ、ジャケット、パンツ、靴、バッグ、
どれをとってもまさにルオモヴォーグなアイテムとコーディネートです。
ロンドンだったら当時、先端のモードを扱っているショップでしかないような、
かなり高級なデザインや品質でした。
カルロというそのイタリアン・ボーイに、ある日私はついに聞いてみました。
「カルロ、それ、どこのブランド?」
「ブランド? 」
彼はシャツの襟を引っ張り、織りネームを見せてくれましたが、
全く聞いたことも見たこともないブランド。
「それ、どこで買ったの?いつも着ている服、どこで買うの?」
「イタリアの、うちの近所の店」
「高級ブティック?」
「まさかー!ふつうの、どこにでもある、ちっちゃい服屋だよ」
「カルロって、うち、どこ?」
「ジェノバ。海辺の街」
「じゃ、そのバッグは?」
彼は教科書やノートをいつもメッシュの、
魚の仕掛け網のようなショルダーバッグに入れてきました。
そのバッグもとても洒落ていたのです。
「これは、その店のショップバッグ。買い物するとこれに入れてくれるんだ」
はあ〜。私は感嘆の声しか出せませんでした。
イタリアはすごい! アベレージがもう全然違う・・・。
つまり、日本でいえば駅前商店街の普通の服屋で、
何も考えずそこに並んでいるものを買えば、
いきなりルオモ・ヴォーグのスタイリングになってしまうということなのです。
それはもう、ファッションの底辺が違うのだなあ・・・
と思い切り脱力したあの日。
あれから幾星霜。日本は変わったでしょうか?
駅前商店街の普通の服屋で、何も考えずにそこに並んでいるものを買っても、
いきなりルオモ・ヴォーグになれるでしょうか?
まだまだそれは高いハードル。
でも、意識はどんどん高まっています。
コスメやカチューシャはなんだかなあと思うけれど、
もともと男性の現代ファッションの基本を作ったのは
18世紀のダンディ、ボー・ブランメルと言われていて、
この人は一時、化粧もしていたそうな。
タイトなジャケットに身を包み、糊付けした白い布を襟元に巻いていて、
誰もがその巻き方を真似していたとかで、
それがアスコットタイなどの原型といわれています。
さらに19世紀の英国の作家、オスカー・ワイルドもまた、
ダンディというと名前があがる存在。
彼は毎日、襟に生花をさしてロンドンの街を散歩したそうで、
彼が白い椿をさせば、
翌日はそれがトレンドになるという、流行をリードする存在。
ネクタイは彼が考案したと言われています。
この2人はその日のスタイリングに2時間くらいかけていたと言われていて、
共通するポイントはふたりとも超インテリで話がおもしろくて毒舌家。
そんなところも、服のスタイリングに説得力があったのでしょう。
メンズファッションのオリジナルは貴族や上流階級が元になっているので、
驚くほど華美だったり、凝っていたり、服にうつつをぬかしている感が満載です。
時を越えて現代。
春先には、ちょっと派手めな色のペイズリーや水玉なんかのスカーフを、
シャツの襟元にコーディネートして、
おしゃれ気分を盛り上げてみるのもおすすめです。

*画像はオスカー・ワイルド。
この半ズボンは19世紀に流行ったもので、シルクの靴下を合わせるのがポイント。