ジギーは★になった。

今年は、はじまって早々、日本国内を騒がせる芸能ニュースが二連発で出た。
そして世界を揺るがす大きなニュースは、デヴィッド・ボウイの死だろう。
70年代初期、ボウイと並ぶ、いや、一時期はボウイ以上の人気ポップスターだった、
T-REXのマーク・ボーランは、1977年に30歳の若さで、
早々に世を去ってしまった。
そのせいか、対比するボウイは90になっても100歳を過ぎても、
粋なご長寿ぶりを見せてくれるのだとばかり思っていたフシがある。
遺作になったアルバム「★(Black Star)」は、すでに死期を悟っていた彼が、
闘病しながら制作し、彼の死が発表される数日前にリリースされた。
(同名のシングルは昨年に先行発売されている)
プロデューサーのトニー・ヴィスコンティによれば、
このアルバムは彼からの最後の、ファンへの贈り物だったのだという。
見事。
世に出たときから、セルフプロデュースの天才だったボウイだけれど、
死に際してなお、スマートな幕の降ろし方をきちんと考えていたのだ。
決して華美でも大げさでもなく、クールに静かに彼は逝き、
それでもきちんとメッセージを残してくれている。
やはりすごいアーティストだ。
1972年、ボウイの出世作である、
“The Rise and fall of Ziggy Stardust with the The Spiders from Mars”は、
宇宙から地球にやって来た男、Ziggyがロックスターになって、
やがて破滅するというストーリーのコンセプトアルバムだった。
宇宙人Ziggyはロックスターになるのだけれど、紆余曲折あって最後には自殺を遂げる。
こんな風に登場したZiggy Stardust=David Bowieは、
彼が創造したキャラクターに乗って瞬く間にスターダムを駆け上がった。
それから幾星霜。
40年以上も、彼は第一線にいて、決して古さを感じさせずにきた。

ボウイをモチーフとして描いたフィクションで、
「Velvet Goldmine」というイギリス映画(1989年作)がある。
監督のトッド・ハインズにインタビューしたとき、
彼自身はZiggy Stardustの頃はまだ子供で、
ボウイやT=REXをリアルタイムでみることはできなくて、
成長してから後追いでレコードや映像に触れたのだと言っていた。
ボウイをはじめとするグラムロックをテーマにした映画を作るに当たって、
彼はなぜ主人公のモデルにマーク・ボーランでなくボウイを選んだのか?
「ボウイは髪をばっさり切ったからね」と、トッドは即答した。
「マーク・ボーランは長いままだった。まだ、過去に未練があったんだよ。
ボウイがショートヘアを立てて登場したとき、
新しい時代が来たとみんな思ったはずだ」
確かに、一作前のアルバムまで美しい金髪の巻き毛ロングヘアだったボウイは、
Ziggyになったとたん、むしりとったような不揃いの短髪になっていた。
その髪型は実に斬新で不穏な空気さえ醸し出していた。
あのヘアスタイルに比べたら、かつては不良だのアウトローだのと言われたロングヘアが、
なんと牧歌的でのんびりして見えたことだろう。
映画”Easy Rider”ではヒッピーたちが、髪が長いというだけで保守的な南部のおっさんに
銃殺されてしまったりしたのだが、そんな反体制のシンボルであったロングヘアの価値を、
ボウイはもののみごとに駆逐したのだ。
その後も彼はさまざまに変化して時代を乗り越えて来たわけだけれど、
David Bowieという人物自身、彼が創造したキャラクターのひとつなのだろう。
彼の人生という見応えあるドラマを私たちは見ていたのだ。
ガンで数年間も闘病していたことは、その死まで公にされていなかった。
そんなストーリーの終わり方が、みごとにボウイ。
宇宙からやって来た男は、また宇宙に戻って行った。

もう20年くらい前になるか、ロンドンで服のブランドを主宰していた友人のところに、
ある日電話がかかった。出てみると、「こんにちは!デビッド・ボウイです」。
なんと本人が直接電話をかけてきて、服を注文したのだという。
この話は続編があって、ある日また友人のアトリエの電話が鳴り、出てみると
「こんにちは!ミック・ジャガーです」。なんとまた直接本人から電話。
イギリスのロックスターは身軽だね。
2人のロックスターから注文を受けた友人はハッピーだったかというと、
「勘弁してって感じだったよ。2人とも選んだのが同じスーツ!
しばらくは2人が同じ服で鉢合わせしないかと心配でたまらなかったよ!」
とのことでした。