エコファーとエシカルで冬を着る


街がイルミネーションでキラキラ輝く季節になりました。
心ウキウキ、でも寒い。
厚手のコートが欠かせない時期です。
現代ではダウンコートはじめ、
軽くて保温力抜群の高機能な化学断熱素材入りのコートが
いろいろ揃っているので、寒い季節もずいぶん快適になりました。
昔、ニューヨーク在住の友人が、毛皮のコートがないと、
あの街の冬は乗り切れないといっていたのが印象に残っています。
もう何十年も前にはじめて渡英した頃は、
ニューヨークより暖かく東京より寒いくらいのロンドンで、
毛皮を着ているマダム的な人がとても多く、
さらに、蚤の市などで大量に出ている古着の毛皮を着ている人は、
もっとたくさんいました。
かくいう私もキツネのハーフコートやストールを、
アンティークショップで買って着ていました。
当時はUKのロックミュージシャンもTシャツにジーンズ、
その上に古着の毛皮というのが冬のお決まりスタイル。
さらに、時代はまだワシントン条約が施行される直前で、
今ではとても持ち出せないような種の毛皮や皮製品も普通に流通していたので、
古着の豹皮コートさえ持っていました。

防寒に毛皮がお役立ちアイテムだった時代は終わり、
今や水鳥の羽毛や化学繊維が人類を寒さから守ってくれます。
絶滅危惧種の野生動物を守るためのワシントン条約のみならず、
次第に「自然保護・動物愛護」の機運が高まってきて、
とにかく動物の毛皮を剥いで作る毛皮製品は残酷という風潮になってきました。
(水鳥の羽毛はなぜOKかというと、これは羊毛のように、
生え変わる、つまり再生可能な素材だからでしょう)
今ではパリコレなどでも本物の毛皮=リアルファーでなく、
そっくりに造られたフェイクファーが使われています。
でもフェイクは偽物という意味なので、
これでは身も蓋もないということからか、
最近はエコファーという呼ばれ方をしています。
安くできてエコノミカルだからエコファーかというとそうではなく、
リアルファーより環境にいい、つまりエコロジカルなファーというわけです。

ファッションも環境を考えて成り立たせることが、
よりオシャレでスタイリッシュという時代なのですね。

そういえば、エシカルファッションという言葉も、最近よく見聞きします。
「エシカル(ethical)」は英語で「倫理的な」とか「道徳基準にかなった」といった意味。
その言葉の通り、道徳基準にかなって生産、流通されているファッションのことです。
それってどういうこと?かというと、
たとえば生産工程の中で誰かが劣悪な労働条件で仕事をしていたり、
アフリカなどの貧しい地域の人たちの生産物を搾取まがいに入手することなく、
フェアな工程と取引で生産されるファッションということ。
エシカルファッションでは、名のあるパリコレデザイナーなどが、
アフリカなどの貧しい地域の人たちに、まず技術を指導して、
さらに、そこにファッションアイテムの生産を依頼したりしています。
ただ支援するだけでなく、女性たちに手作業などのノウハウを教えて、
未来的にも職業として成り立つようにする。
地球規模で環境を整えるために役立つファッション、というのが、
エシカルファッションの考え方。
ハイブランドの服を着るというのは、そのオシャレ感もさることながら、
「これを着る自分」という満足感・優越感も満たされるもの。
それに加えて、環境にいいことを実践しているブランドの服を着ることで、
ボランティア活動に参加しているような、ある種の満足感を得られる。
それが今ドキの優越感につながるようです。

ファッションと環境がリンクする現代、
個人にとって究極の環境問題は家ということになります。
住居そのものはかんたんに変えられないけれど、
部屋の模様変えは簡単だし、マイナーチェンジなら服を着替えるくらいの気分でできます。
今やインテリアは、気に入っているファッションスタイルの仕上げのようなものです。

そんな中、「究極の家は服である」という考えのもと考案された服が、
先日「日本の家展」に出品されていました。
津村耕佑さんというデザイナーの考案した”FINAL HOME”で、
「『もし、災害や戦争、失業などで家をなくしてしまったとき、
ファッションデザイナーである私は、どんな服を提案できるか、
またその服は平和なときにはどんな姿をしているのか
こんな自分への問いに対し、形になったのが〜ナイロンコートです』
ポケットに新聞紙を詰めれば防寒着になり、
非常食や医療キットを入れるポケット付きで災害時には非難着になり、
マルチに役立つ服とのこと。
『FINAL HOME』というネーミングは直訳すれば「最後の家」ですが、
本作においては「究極の家」という意味を持たせているそうで、
存在を知らせるためのオレンジ・森に紛れるカーキ・都会に紛れるブラックの3色展開。
取説はコートの収納袋に記載され、機能的です。
このコートはリサイクル可能で、洗濯してショップに持っていけば、
被災者や難民の救済に寄付されるとのこと。
とりあえず、これを着て外出すれば出先で災害にあっても、
雨風はしのげて野宿も可能、という、
自分にも優しい、環境直結のファッションです。

「究極の家は服である」というフレーズから思い出すことがあります。
小学生の頃、寒い冬の朝に布団から起き上がるのがいやで、
布団やこたつに入ったまま移動できればいいのにと夢想した日々。
未婚やひとり暮らしが増加しているこの列島では、
そのうち家の形も姿を変え、ヤドカリのように小さなセル=個室を背負って
生きるようになるかも知れません。
その頃には、軽くて薄いのに人体を守るタフさを備えた、快適なセルができていそう。
フード部分が一瞬で広がってワンタッチテントになるような服かも。
これが本当のホームウェアでしょうか。

*画像は「日本の家展」に出品されていたときの「FINAl HOME」と収納袋です。