街を歩くと冬枯れの景色の中、梅の花が咲き始めています。
春の兆しを感じると、わけもなくウキウキします。
季節を先取りする花柄や淡い色彩のアイテムを選びたくなる今日このごろ。
先日、ベルギーのファッションデザイナーの生活を追った
『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』というドキュメンタリー映画を観ました。
公式サイトによれば、
「孤高のファッションデザイナー“ドリス・ヴァン・ノッテン”。彼の創作の謎に迫る――
ベルギー出身の世界的ファッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテンを追ったドキュメンタリー。
世界のセレブリティやファッションアイコンから愛されているドリス・ヴァン・ノッテン。
パリのグラン・パレで開催された2015春夏レディースコレクションから、
オペラ座で発表した2016/17秋冬メンズコレクションの本番直後までの1年間、
これまで一切の密着取材を断ってきたドリスに初めてカメラが密着。
半年間の準備を経て開催されるショーの舞台裏、アトリエや刺繍工房などの創作の現場、
さらに創作活動を支えるアントワープ郊外の邸宅にもカメラが入り、
完璧主義者で知られるドリスの意外な素顔ものぞかせる。
監督は「マグナム・フォト 世界を変える写真家たち」のライナー・ホルツェマー。
ドリスの2014春夏レディースコレクションで音楽を担当したイギリスのロックバンド
「レディオヘッド」のベーシスト、コリン・グリーンウッドが本作で映画音楽に初挑戦している」。
というもの。
ヨーロッパの古典的な美しさをベースにしながらも、
現代ベルギーの研ぎ澄まされたモダン感覚で表現したアイテムは、
どれもみなためいきが出るほどきれいで上質でスタイリッシュ。
花柄や自然のモチーフがストライプや幾何学模様と融合する、
絶妙なテキスタイルの傾向や刺繍使い、レース使いなど、エレガントかつ魅惑的。
ヨーロッパ系ファストファッションのデザインソースがそこにあります。
一方、オリジナルを生み出すドリスは広告を打たず、スポンサーも持たない、
自身のクリエーションを追求するデザイナーの精魂かけた仕事ぶり。
ショーの舞台裏で誰もが走り回っているようなシーンでも、
ドリスは落ち着いていて静かなトーン。
若手デザイナーにダメ出しするときも穏やか。
少し沈んだ色調の映像によりそう環境音楽のようなBGMという、
静かな表現なのに、とてもエキサイティングな映画でした。
あれだけクリエイティブで繊細なドレスやメンズアイテムを創り上げるドリスの服装は、
いつでも普通のドレスシャツにノータイ、
クルーネックセーター、細コーデュロイやウール、コットンのパンツ。
シャツはホワイトや淡いグレーなどの無地か細いストライプ、
セーターはミドルゲージの無地でシンプルな定番デザイン、
パンツは腰回りにゆとりのあるシルエットのもの。
街なかですれ違っても、まずファッション関係の人とは思えないような、なにげないスタイルです。
映画の中に、彼の公私共にパートナーである男性が登場します。
休暇の際は郊外にある豪邸で、2人で料理をしたり庭から花を切ってきて邸内に活けて飾ります。
邸内はもちろん整然としていて、厳選されたモノだけが置かれていて、さらに、花瓶などは動かすたびに、念入りに位置をチェックし、1cm間隔くらいで置き場所を調整します。
いやはや、これ、やたらな人には到底相手はつとまらないし、よくぞよき伴侶が見つかりましたね、
と大きなお世話なことを思ってしまいました。
ともあれ、その2人の様子は、長年連れ添った気の合う中年夫婦のようで、
お互いへの思いやりや気遣い、敬いの気持ちを感じました。
ショーが終わり、舞台に出て挨拶を済ませると毎回ドリスは、袖で待ち受ける彼とハグ&キス。
毎シーズン、神経を注いで創造する苦労を思うと、
いい人がいてくれて本当によかった、と、またしても大きなお世話な感慨を抱きました。
ところで、ドリスの出身国であるベルギーはLGBT(同性愛や両性愛、性同一性障害)など、
少数派に優しい国で、2003年、世界で二番目に同性婚を合法化しました(世界初はオランダ)。
同国では前首相もゲイをカミングアウトしているとか。
社会の受け入れ体制も整っていて、
産婦人科の不妊治療などでは、「同性カップル」「異性カップル」と分けられていて、
それぞれのスペシャリストが対応しているのだそうです。
同性で不妊治療?と思われるかもしれませんが、つまり同性カップルが、
体外受精や代理出産などで、自分たちの子供を持つべく治療を受けるということ。
結果、パパ2人の家やママ2人の家、一見ママだけど実はパパな家とか、あるいはその逆という、
バリエーション豊かな家庭が生まれて、それでも子供たちは、当人も周りも、
それを自然に受け入れているのだとか。
LGBTに優しい国は、すべての少数派に優しい国でもあるのかも知れません。
世界を見渡してみると、イギリスはベルギーに遅れること10年、2013年から同性婚を合法化。
施行直後、世界的なアーティストのエルトン・ジョンが晴れて同性のパートナーと結婚したのも
当時、ニュースになりました。
最近、エルトンは引退を表明。今後は代理母を通じて授かった2人の子供と愛する夫との、
家族の時間を大切にしたいのだとか。
この2児の生物学的な父親はエルトンか夫か、明かしていませんが、仲良く1人ずつというところかも?
ちなみにエルトンの320億ともいわれる財産は、子どもたちに譲るつもりはないとか。
莫大な遺産を何もせずに手に入れては、子供たちの人生によくないという考えだそうで、
今から皿洗いをはじめ、身の回りのことは自分でするよう躾けているといいます。
エルトンママ、かなりの教育ママです。
ともあれ譲らないつもりの財産の行方が気になります。エルトン基金とか作るのかしらん。
米国では州によって同性婚が認められていて、ヨーロッパではフランスやオランダ、
ノルウェーほか15カ国くらいで認められています。
一方、日本国内では、渋谷区がはじめてLGBTカップルに「結婚に相当する関係」を認める、
証明書の発行を実施しているのみ。
種の保存や子孫繁栄ということを考えれば、同性愛が増えてしまうと大変じゃないの?ということで、
現行の法律が定められているのだと思いますが、
医学の進歩によって、エルトンのように同性婚の夫婦も実子=子孫を増やすことが可能になった現代。
それが神の摂理に反すると考える人や、自然の摂理に反すると考える人などもいましょうし、
一朝一夕に同性婚の合法化は難しいのかもしれませんが、
マイノリティに優しい=他者に優しい、社会になっていって欲しいとせつに願います。