朝晩の風が心地よくなってきました。
涼しくなれば、着るモノも気になってきます。
秋風の訪れを感じさせる今日この頃、
肌触りのいいカーディガンが欲しいと思いはじめました。
先日、表参道で見かけたおしゃれな初老のフランス人(顔からの推定国籍)男性が、
グリーンのモヘアのカーディガンにピンクのタイシルクのシャツという、
フランスの老婦人みたいな色目のチョイスに、
大きめのシルバーブレスレットを合わせていて、
えらくカッコよかったのでした。
昔、アパレルメーカーでデザイナーをしていた頃、
ニット物の色展開にグリーンを入れると営業の人たちに
「緑はNG!売れないから!」とクレームがついたものです。
今から20年以上前の日本では、グリーンはあまり動かない色のようでした。
そんなわけで、グリーンをおしゃれに着こなしている人を見ると、
思わず目で追ってしまいます。
たとえばカーディガンなんかだと、黒、紺、グレー、茶、
あたりは男女共通の色ですし、
ワイン、サックスブルー、赤あたりも、男女OKの色といえます。
さすがにショッキングピンクや、
鮮やかなオレンジのカーディガンを着た男性はあまり見かけないけれど、
実はカラフルなものが着たいと思っている人はいると思います。
これもやはり、デザイナーをしていた頃ですが、
赤みがかったピンク、コバルトブルー、イエロー、黒、
などのマルチストライプのカーディガンとセーターを、
デザインしたことがありました。
モヘア素材でざっくり編んだビッグサイズだったので、
男女共有で着られます。
これが、男性にとても人気で、お得意先のショップの人達に聞くと、
買って行くのは男女半々だったとか。
ある店の男性店長は「全色買った」と言っていました。
その人もそうでしたが、男性で赤やきれいな色のニットを着ている人は、
ナヨッとしている人よりマッチョ系が多いような気がします。
原色ニットはフェロモンを刺激するのでしょうか?
今日本屋さんに行ったら、一人の男の子が雑誌を立ち読みしていました。
まず、視界に飛び込んできたのは、彼の髪の色。
明るいブルーで、お椀型の髪の、
耳の横あたりの一筋が鮮やかな黄色でした。
彼は襟と袖がとても長い白いシャツを着て、
ピンク系のアンティーク風編み込みベストを合わせ、
その下に淡いグレーのロングスカートに見えるパンツを履いていました。
それにしても明るいブルーの輝きを発する頭部。
オウムみたいだと思いました。
自然界にある原色の花鳥風月をコピーしたくなるのは、
人間のプリミティブな欲望かも知れません。
ともあれ、うちの近所のような、よくある私鉄沿線の、
地味な町の地味な本屋さんで、輝くブルーの髪はとても目立ちます。
これが動物なら、そく、女性にアピールするための原色ヘアですが、
人の派手さはそれだけが目的ではない。
つまり現代日本の少年が髪を青くする目的は、
子孫を残すためのみではない。
このあたりに、人類の進化と退化を見る思いでした。
これは、昔からよく言われることですが、
動物の中でオスが地味なのは少数派で、
たいがいの野生動物はメスよりオスのほうが、
派手だったりきらびやかだったりします。
これは、彼らの価値基準の中で、
そのほうが女性(メス)にアピールするから。
野生動物の使命は子孫を残すこと。
しかも、より強く、より優秀な種を残すために、
メスは、より立派なオスを選びます。
見かけが立派とか、立派な巣を作ってくれるとかね。
結果的に優位なDNAが継承されていくわけです。
これは、厳しい自然の中で生きる動物たちの当然の仕組みです。
オスの美しさがメスを惹きつける条件、という動物の代表と言えば、
なんといっても孔雀が思い浮かびます。
あの美しいゴージャスな羽根があるほうがオスで、
メスは茶色い羽根がちょろっとあるだけ。
オスはメスにアピールする時、羽根を思いっきり広げて、
ユサユサ揺らしながら迫ります。
「ほれほれ、どや!どや!!」という声が聞こえるようです。
一説によると、メスがオスを選ぶ基準は、
あの羽根の中にある目玉模様の優劣。
より大きく、くっきり鮮やか、
より数が多い方が優秀なオスなんだそうです。
理由として、今、考えられているのが、
くっきり鮮やかで美しい目玉を形成できる遺伝子のほうが、
免疫力も強く、丈夫で長持ちなんだとか。
孔雀に限っては佳人薄命じゃないわけです。
以前、ある離島で孔雀の一群が野生化して生息しているのを、
ドキュメンタリー番組で見ました。
その島に以前あったたホテルが観光客用に孔雀を飼っていたのですが、
閉館してしまい孔雀だけが残されて、
いつのまにか野生化しているというものでした。
で、その中に数羽の白い孔雀がいました。
人間の目から見ると、純白の孔雀はとても幻想的で美しいのですが、
メスの前で「どやどや」と羽根を大きく広げてユサユサ振って見せても、
とにかく目玉がないものですから、見向きもされません。
まさに目玉商品がない状態。
「何やってんの?アホちゃう」みたいな顔されてガン無視。
空しく羽根を閉じ、肩を落としてすごすご立ち去る白い孔雀。
そのうなだれっぷりったら、あんなにガックリしている孔雀は初めて見ました。
そして、彼ら白い孔雀のオス同士が集まって、
グループになっている様子はとても感慨深いものがありました。
さて私たち人類は、厳しい自然界で暮らす必要もないので、
女性が男性を選ぶ条件はさまざまです。
野生動物のように、より立派な巣を作ってくれるオスを選ぶ人、
孔雀のように見かけが美しいオスを選ぶ人。
国の違いや人種の違い、そして個人のコノミでも違います。
たとえばファッション雑誌で見る限り、
20年くらい前までは、欧米では、よりマッチョな男性が好まれていました。
海外の男性ファッションマガジンの代表ともいえるルオモ・ヴォーグでも、
メインモデルはみんな、美貌で筋骨たくましいダビデタイプ。
女性もグラマー系が中心でした。
日本ではそれ以前から、メンズファッションのモデルはどちらかといえば、
スマート系や中性的なタイプ。
東洋人は一般的に、欧米人に比べれば顔も体つきも少年ぽく見えます。
それゆえ日本のファッション雑誌のモデルは欧米に比べて、
いわば草食系にみえるのかも知れません。
ところが最近の傾向は、欧米のメンズファッション雑誌のモデルも、
どんどん中性化しています。
コレクションに登場してくるのも、
昔のようなマッチョタイプではなく、
ほっそりした美少年タイプが急増。
まあ、スカート男子発祥の地であるコレクションですから、
あまりマッチョなモデルでは
『タイタンの戦い』みたいになってしまいますし。
最近「美人過ぎる男性モデル」として話題のアンドレイ・ペジックは、
ジャン・ポール・ゴルチエの
’11/’12秋冬メンズ・コレクションに登場するとともに、
オートクチュールコレクションにも女性モデルに交じって登場。
中性的なルックスでメイクしてランウェイを歩く彼は、
もう全くレディースにしか見えません。
インタビュー動画を見ると、しゃべり口調はかなりのオネエさん。
ゲイかどうかは明確にしていないけれど、
同性が好きでも異性が好きでもたいした違いはなさそう。
この手の男の子はとにかく「自分大好き」ですから。
ファッションデザイナーそのものは限りなく中性的な人が多いけれど、
ファッションの役割は孔雀の羽であり、
豪華な巣作りの保証書代わりであったはず。
服の未来はどこに行き着くのでしょう?
さらに女性モデルはグラマラスなタイプが減って、
美少年のように中性的なタイプが増えたので、
もう一見、どっちがどっちだかわからない感じ。
あのバーバリーのモデルも、20年くらい前までは、
彫りの深いニヒルなダンディという感じの男性が、
有名なバーバリーコートを着て颯爽と歩いている、
「バーバリーは冨と成功のシンボル!」
みたいな感じのモノでした。
最近ではあのハリー・ポッターのハーマイオニー役のエマ・ワトソンと、
ミュージシャンのジョージ・クレイグのような、
少年少女みたいなカップルがキャラクターをつとめていました。
肉食系の子孫繁栄的ビジュアルから、まだ将来性が不安定なヒヨコ系へ。
これは地球規模の路線変更のようですが、
少子化の昨今、おばさまをターゲットにしないで大丈夫なのでしょうか?
それとも青田買い的な、将来の顧客確保の準備でしょうか?
以前、ニュースキャスターの鳥越俊太郎さんにインタビューした時に、
少子化の話題が出て、原因は晩婚化や非婚、
シングルマザーへの冷遇など色々あるでしょうが、
「男性の精子の数も減っている傾向があるんでしょうか?」と聞いたら、
鳥越さんは、
「そうみたいだよ。やっぱり食べ物や環境の変化が原因だろうね」
とおっしゃっていました。
ニットの色味から地球の存続へと、思いは伸びて、暮れていく秋の日です。