仕事柄、色々な人に会います。
女性誌、男性誌、ファッション雑誌、インテリア雑誌などのモード系から、
生活情報誌や企業の広報誌まで関わっているので、
取材対象もインタビューする相手も千差万別です。
ヴィヴィアン・ウエストウッドにインタビューした帰り道、
世田谷区役所に行って「梅まつり」の写真を借り、
小田原で梅干し漬けてるおじさんにインタビューしたあと、
都心に戻りハリウッドの映画監督にインタビューするといった、
超メリハリのある仕事です。
そんな感じで色々な人に会うのですが、
みなさんそれぞれ、人物・ファッションともども味わい深いものがあります。
その中で純粋にファッション的に「おしゃれ!」と思った男性は?
というと、2人とも芸能人の方でした。
(一応、服飾を専門とするプロの人以外で)
お2人とも文化出版のミセスという雑誌の取材でお会いしたのですが、
1人は、堺正章さんです。
この方は、もう数十年前から「部屋にルオモ・ヴォーグ*が転がっているらしい」
とウワサがありました。
今でこそ、若手男性芸能人や一部お笑い芸人の方でもみなさんオシャレで、
私がお会いした中でも椎名桔平さんや小林薫さんなんかも、
プラダやグッチをサラリと着こなしていて、
パリコレのモデルみたいにスタイリッシュでした。
でも年配の芸能人でルオモ・ヴォーグを数十年前から愛読している人といえば、
やっぱりマチャアキ以外に思い出せない。
そして本物はウワサ以上にダンディーでした!
愛用のスーツはゼニア*だそうですが、高級スーツをバリバリと、という感じでなく、
肌に馴染ませてさりげなく着こなしている感じが、なんともお洒落(ここは漢字な感じ)。
英国紳士というか、英国の田園風景に似合いそうな、大学教授風印象。
お会いした時、とてもにこやかなのに目がマジメで、
あの有名な笑顔の奥に広がる深い深い土壌の存在を感じました。
それは知識とか経験とか智恵とか感受性とか、
いろいろな要素からできているのだと思うのですが、
そのうえで自分をどう見せたいかもよくわかっていて、
見事にセルフ・プロデュースできている。
なおかつ服はパッケージだということもよくわかっている。
叡智が生んだ隙のないスタイルという感じで、
おしゃれってこういうことをいうんだなと納得させてくれます。
そんな堺さんと対極ともいえるのが、
ナチュラル系あるいは脱力系お洒落キングと呼びたい三國蓮太郎さん。
もうダントツです。
まず取材の前に撮影があり、スタジオに現れた三國さん。
日本を代表する名優にして大スターにして日本映画界の重鎮ですよ。
そんな大スターが飄々と入って来る、
まずその軽やかな登場の仕方がなんともカッコいい。
もちろん日本人離れした容貌や身長にも恵まれているのですが、
服が極めつけにオシャレ!!
当日の私服は紺白の細い縦ストライプの綿ジャケットに、淡いブルーのTシャツ。
生成のコットンパンツに茶色いデザートブーツ!
ここがポイントなのですが、そのジャケットもTシャツも新品ではなく、
いいかんじに着込んである。
普通、ピカピカの若造ならヨレた服を着ても、それなりにおしゃれに見えますが、
年齢を重ねた人がヨレた服を着て輝けるというのは、並大抵のことではない。
全身お洒落パワーに満ちたボディーと顔つきをしていなくては、
たちまちヨレヨレカモフラージュに覆われて、くすんでしまうのです。
それがまあ三國さんと来たら、着慣れたシャツが逆になんとも粋で、
パリやミラノの町角で擦れ違う洒落者おじさまというかんじ。
もちろん撮影のバリッとした新品衣装も見事に着こなしてしまう。
さらに、表情や語り口調、仕草、物腰、すべてにフェロモンが漂っているのでした。
そのフェロモンすなわち、女性、あるいは生物全般に対する包容力ではないか、と思いました。
「僕自身も含めて、年寄りは信用してないから、できるだけ若い人の話を聞くようにしてるんです」と三國さんはおっしゃった。
仕事で知り合ったロック・ミュージシャンを家に呼んで色々話をして、
すごく楽しかった、という話もされていました。
当時80代半ばのおじさまが、ですよ。
未知のもの、新しいものへの興味や好奇心が三國さんを若々しく保ち、
フェロモンを形成して周囲の生物を引き付けて、さらに若々しくなって、のような。
しかも話すほど柔軟で少年ぽい、ピュアな部分が浮きぼりになって来ます。
魅力的に年を重ねる秘訣は柔軟さにあるんでしょうか。
ともあれ、かたや隙のないスタイリング、かたや脱力系スタイリングと、
一見異なるお二方ですが、その基本であるボディーにパワーがあるのは同じ。
そしてファッションは生き方そのもの、と改めて思わせてくれます。
私も、着古したシャツとジーンズでおしゃれに見えるおばあちゃんを目指したい・・・と淡い夢を。
*L’uomo Vogue イタリアの男性ファッション雑誌です。
*ゼニア イタリアの生地メーカーがはじめたオーダースーツやアパレルの高級メンズブランド。