30年後のロイヤル・ウェディング

ロイヤル・ウェディングはご覧になりましたか?
今回は王室自ら「地味婚」と表現しているそうですが、
中継を見ながら本当に地味だわ、と思いました。
30年前のチャールス&ダイアナの時と比べて、色々な意味で。
あの当時も英国はやや不況で失業率上昇中、
かつ労働意欲低下中という時代背景のもと、
皇太子の結婚は世紀のビッグイベントとして恰好の盛り上げ要素でした。
当時、私はロンドンに住んでいたのですが、
いつになくノッているイギリス人を見て、
本当にこの人達は王室が好きなんだと再認識しました。
いつもはクールで多少アナーキーな友人でさえ、
アパートの隣のおばさんに
「結婚式の招待状は届いた?」とベタな冗談をふられ、
「招待状は届いたけど先約があったから丁重におことわりしたよ」
「あら、あたしと同じだわ」みたいな会話を交わしていたのを覚えています。
はては、ダイアナのおばあさんが官能小説作家だったから、
「彼女は結婚式に出席しないと言っている」
「いや、『招待状はもらったけど断ったと言え』と、バッキンガムにいわれたらしい」
なんて噂話も色々。
要するにほとんどのイギリス人にとってロイヤルファミリーは、
サッカーの試合や選手の噂話のような、
それさえすればたちまち打ち解けられる題材のようで、
ともかく王室は人気者なのでした。
もう国をあげてフィーバーしていたし、
海の向こうのことなのに、日本でも相当話題になったのではないでしょうか?
今回は震災の影響もあるのでしょうけれど、
このボルテージの低さは
日本の若い世代の内向き志向にも原因があるのではないかと。
あの頃、日本ではベイ・シティ・ローラーズやノーランズなんていう、
英国のポップ・グループが人気だったから、
イギリスは今より身近だったのではないでしょうか?
最近の日本では韓流とレディ・ガガ以外の海外勢は影が薄いですよね。

30年後の今、英国はまたしても不景気で、
王子の結婚は経費削減でパレードの距離を縮めたり、
花嫁のドレスのトレイン(引き裾)はダイアナ妃の時より5メーター近く短くなりました。
まあ、これはデザインの違いですけれど。
ハタチそこそこで花嫁となった元保母さんのダイアナ妃と比べて、
今回の花嫁ケイトさんは、もう29歳の大人の女性。
しかもアパレルメーカーのバイヤーをしていたというくらいで、
一般の女性よりはるかにファッションに敏感です。
結婚前のスナップを見比べてみても、素朴で少女っぽい格好のダイアナ、
いかにもファッション業界という洗練されたスタイルのケイト。
30年という年月を隔てて並び立つ2人のロイヤル花嫁はあまりに対照的です。

そしてウェディングドレスにダイアナが選んだデザイナーは、
ロマンティックな服を作ることで知られていた
エリザベス&デイヴィッド・エマニュエルというデザイナーカップル。
ドレスは大きなパフスリーブの袖や、
7メートルものトレインが特徴的なメルヘンタッチのもので、
若くてかわいいダイアナ妃にぴったりでした。
一方、ケイトさんがデザイナーに選んだのは、
「アレキサンダー・マックイーン」のチーフデザイナー、サラ・バートン。
ブランドの創始者であるリー・アレキサンダー・マックィーンは、
英国ファッション界の鬼才とも異端児とも言われたデザイナーで、
今やスタンダードと化したスカル(ドクロ)モチーフの生みの親です。
昨年、惜しくも自死したマックイーンの右腕として、
女性部門を担当していたのがサラ・バートンでした。
アヴァンギャルドだけれど古典的な面もある、しっとりしていてなおかつクールという、
イギリス独特の持ち味そのもののマックイーン・ワールドを今、担っている人です。
ケイトさんのウェディングドレスはV字に開いたデコルテと袖にレースをあしらった、
上半身こそ女らしくてエレガントなデザインですが、
ドレスのスカート部分の立体的なフォルムの雄々しいほどの美しさときたら!
バックスタイルも、張りのある素材がまるで大きく隆起する海原を思わせるような、
立体感があって、女性らしさや愛らしさというより、
アーティスティックで力強い魅力に満ちたデザインのウェディングドレスでした。
英王室が新しく選んだ選択が「アレキサンダー・マックイーン」だったという点にも、
時代の流れを感じます。

アナーキーで反骨精神たっぷりだったマックイーン。
自社のデザイナーがプリンセスのウェディングドレスをデザインする、
それがわかった時の彼のコメントを聞いてみたい気がします。
ちなみに彼は、今回のウェディングに招待されたエルトン・ジョン同様、
同性婚をしていました。
まあ、そんなこともマイナス要素にならないという点に、
英国社会の熟成した文化意識を感じます。
ところでYou-tubeで見たのですが、
エルトン・ジョンは同性のパートナーとともにモーニング着用で会場に現れました。
パープルのシルクタイ、明るいベージュのベスト、グレイのパンツというスタイリング。
シャツはフォーマル用なのでしょうがウィングカラーではありませんでした。
2人ともなんかゆるーい感じで微笑ましい。
一方、同じく招待ゲストのベッカムはモーニングにウィングカラーのシャツ着用で、
さらにトップハットも手に携えているというパーフェクトなフォーマルぶり。
あまりにもキメキメすぎで緊張しているのか、
あまり楽しそうじゃないベッカムとビクトリア。
そこへ行くと人のよさそうなパートナーのデビッド・ファーニッシュと、
にこやかな笑顔を見せるエルトン・ジョンのカップルは本当に幸せそうでした。
ロイヤル・ウェディングという世紀の結婚式に、
様々な「夫婦」の形を見た夜でした。