スーパーに昇級

 前回、このコラムでクールビズについて書いた翌日に、
「今年はスーパー・クールビズです」
というバージョンアップが環境省から発表されてびっくり。
より一層の軽装化を求めるということで、それによればTシャツでも無地ならOK、
ジーンズも穴があいてなければOK、なのだそうです。
ジーンズって、決して涼しくはないと思うのですが、まあ、カジュアル度の指標みたいなものなのでしょう。
チノパンもOKとのことですが、
すべてにおいて「だらしなくない程度」という注文がつけられています。
とすると、カーゴパンツなんかは?
原型は貨物船で荷物を扱う人たちの作業着ですし。
あるいはミリタリーパンツなんかは?
と、謎が深まるスーパー・クールビズの定義。
そして、いくら
「今年はスーパーなんですから、もっともっと軽くいっちゃってください、
ささ、遠慮なく」
と肩を叩かれても、Tシャツとチノパンで出社できる会社はそうそうないでしょう。
業種や部署にもよると思いますが、ほとんどのオフィスでは、
ノーネクタイやポロシャツが限度なのではないでしょうか?
環境省がいうわりに閣僚の方々だって、
テレビで見る限りみなさんノーネクタイ止まりです。
中にはきっちりネクタイをしている方もお見受けします。
テレビの報道番組のキャスターもネクタイ&ジャケット着用です。
枝野官房長官や細野首相補佐官、およびキャスターの方々が、
Tシャツとチノパンで登場すれば世間のコンセンサスも変わるかも、ですね。

 そういえば先日、テレビで外国人ジャーナリスト3人の論客が、
「原発問題を徹底討論する」という番組がありました。
もう終わりかけの時に見たので内容よりも、
登場する外国人ジャーナリストの日本語の流暢さと、
イタリアのテレビ局の極東特派員であるピオ・デミリアさんのおしゃれっぷりが、
印象に残っています。
50代半ばのデミリアさん、ちょっとメタボなボディラインで、
いかにもイタリアンな感じ。
でもよく見るとマルチェロ・マストロヤンニに似ていなくもない風貌です。
そのデミリアさんが淡いブルーのドレスシャツを着ているのですが、
ボタンは2~3個外して、もちろん下着はなしで、袖はラフにまくりあげている。
全体的にきわめてラフな感じで、
もはやだらしない領域に片足突っ込んでいるのですが、
なんともカッコいいし、大人の男の色気もあります。
イタリア人TVスタッフは全員こんな風にお洒落なのか?と思って、
デミリアさんが所属するSKY TG24というテレビ局の番組を、
you-tube でみてみると・・・そうでもないようです。
なんかもっさりした野暮ったいスーツを着てるおじさんもいるし
(ちなみに女性キャスターはえらく胸のあいたトップスという、日本だったら、
たちまち叩かれそうなファッションの人が多いようです)。
まあ、イタリア人だからといって、全員がファッショナブルでないのは、
日本人だからといって全員着物を着られるわけではないと、そんな感じでしょうか?
そうイタリア人といえばもうひとつ、全員がハイテンションで明朗快活、
そしておしゃべりというイメージがありますが、
インタビューでお会いしたパンツェッタ・ジローラモさんは、
見事にクールで控えめで言葉を選んで語るタイプのイタリア人でした。
 来日してもう長い年月が経つジローラモさんに
「今と昔で、日本の男性のファッションはどこが一番変わりましたか?」
と聞いたら、答えは「靴」。
 昔はほとんどのサラリーマンが、なんのしゃれっけもない靴を履いていたけれど、
今では若いサラリーマンを中心に、すごくお洒落になっているとのこと。
実際、近頃は電車の中で、若いサラリーマンの人がやけに先がとんがっていたり、
やけに先端までが長いフォルムの靴を履いているのをよく見かけます。
 足元にこだわることはファッションの仕上げでもありますし、
サラリーマンのお洒落アベレージが円熟の境地に入っているのかも知れません。
と同時に、これは私が感じていることですが、10年くらい前から、
カジュアルなイタリアンレストランやフレンチレストランで、
男性の1人客がパスタや鴨肉のソテーなんかを、
黙々と食しているのを見かけるようになりました。
グルメ志向の中年や高齢男性ならいざ知らず、
若い男性が1人でそういう店でご飯を食べている光景、
最初はちょっとびっくりしましたが、最近はもうよくある図になってきました。
定食屋、ラーメン屋、蕎麦屋、あたりが男性の1人客には入りやすいと思いますが、
そこにイタリアンやフレンチが加わったのは、
若きサラリーマンの靴が飛躍的におしゃれになった頃と時を同じくしているような。
(同様に、東京近郊ではどんな駅前にもあった蕎麦屋が続々消滅し、
代わりに「なんちゃってイタリアン」が増えてきたのも同じ時期という気がします)
で、カッコいい靴やシャツをカッコよく着こなせる人々は増えているのですが、
今から10〜20年後には彼らが、デミリアさんみたいに、
だらしない領域までのラフな着こなしを、
カッコよく洒脱にこなせる中年男性になっているのかも知れません。
ともあれ、かつてドレスシャツは下着も兼ねていたという歴史もあり、
欧米ではシャツの下に下着を着ないのが基本です。
この際スーパー・クールビズ精神にのっとり、
シャツ1枚で下着は着ないという冒険をしてみるのもおすすめ。
ただし日本の夏は暑いのでローションやパウダーなどの、
デオドラント(制汗)対策をお忘れなく。