北の国の晴れ姿

つい先日、終了した冬季オリンピック。
期間中、日本は大雪、一方、五輪会場のあるソチは暖冬で雪が少なく、
テレビ画面の現地レポーターは春の装い、見ているこちらは大雪の中。
という近来マレに見る逆転ぶりでした。
オリンピックに関しては、夏より冬の方がなぜかココロ惹かれます。
夏の競技は走ったり泳いだり、時間を度外視すれば自分にもできます。
ま、時間が問題なんですけど。
でも、冬の競技はあんな高い所から身ひとつでジャンプとか、
スケート滑りながらジャンプとか、
絶対自分にはできない超人的なものばかり。
そこに惹かれるのがひとつ。
さらに、子供の頃「白い恋人たち」という、1968年冬季のフランス、
グルノーブルオリンピックの記録映画をテレビで見て、
挿入歌の「宴の日々は終わった、街にまたいつもの日常が戻って来る」
という対訳の歌詞にやけに感動した覚えがあります。
なんというか、その、地に足がついたクール感に子供ながら目からウロコというかね。
一方、かつての日本のオリンピックソングは三波春夫御大の
「♪ ハア〜、オリンピックの晴れ姿 〜中略〜 ちょいと、こりゃ晴れ姿ぁ〜」
でしたから。
いや、この浮かれ気分というか、限りなくアッパーなお祭り気分、
アゲアゲなノリは、当時の日本に必要なものだったのです、もちろん。
高度経済成長期、右肩あがりの真っ最中。
敗戦国にして庶民的にはまだ貧しかった小国が、
世界に鳴り響く経済大国に成長を遂げつつある時期ですから、
やっぱりテーマソングは「オリンピックの晴れ姿〜ぁ♪」が大正解。
そんな極東の国の1少女が「宴は終わった、またいつのも日々が戻ってくる」と歌う、
フランスのオリンピック感覚に驚かされたというか。
で、真っ白な銀世界で繰り広げられる冬季オリンピックは私にとって、
魅惑的なものになったのです。
中でも、楽しみはなんといってもハーフパイプ。
今回、銀・銅W受賞という快挙で一気に注目度が増しました。
この競技がはじめて冬季オリンピックに登場したのが1998年の長野オリンピック。
このときに観て以来、いっぺんでファンになってしまいました。
まず、選手が圧倒的にいまどきの若い子風。
フィギュアスケートのバレリーナ風衣裳や
スピードスケートのSF風ユニフォームなどに比べて、
ハーフパイプはもともとスノーボードなので、
超カジュアルウエアで登場します。
ダブダブのアウターに腰パンとかね。
それでも各国の制服は決められていて、
全く私服で出場する海外の他大会とは様子が違うらしく、
銀メダル受賞者の平野歩夢くんから見れば
「ウエア決められてるから、似合ってない人とかもいて、おかしかった」とのこと。
超カジュアルな制服にもかかわらず。
そんな出で立ちで登場する出場選手たちは、
見るからに張り詰めたオリンピック競技の中で唯一、
ゲレンデに遊びに来てる人ぽく見えるというか、
洋の東西を問わずストリート系なノリの青少年が多いのです。
競技を終えて点数を待っている間も、投げキッスはあたりまえ、
会場の音に合わせて体を左右に揺らしてラップしてみたり、
手でラッパー調のジェスチャーしてみたり。
そのゆるさが見ていて楽しいというか、
競技の技の凄さと演技後の本人の軽さ(に見せているにしても)
そのギャップのおもしろさ。
オリンピックという一種、品行方正かつストイックな趣き(を求められる)の
選手たちが多いイベントに置いて、ある種異質で心惹かれたのです。

そんなハーフパイプで、これまでのナンバーワンはアメリカのショーン・ホワイト。
この人にしかできない難しい技を次々に生み出して、
他の追随を許さないハーフパイプ界のスーパースターです。
狼的な雄々しいロングヘアがトレードマークだったけれど、
今季のオリンピック前に切ったというヘアスタイルは短髪でオシャレ。
最近バンドも組んでプロデビューしたとか。
金メダル連覇を期待されていた彼は、今回なぜか転倒やミスが多く、
3位入賞もなりませんでした。
王者を焦らせた要因と見られているのが、
今回、銀メダル受賞の日本代表、平野歩夢くん。
ショーン・ホワイトしか飛べないといわれていた6m超えのジャンプを飛び、
海外の権威ある大会でショーンに次ぐ2位。
海外でも注目を集めていた脅威の人材です。
その彼につぐ成績を収めたのが平岡卓くん、弱冠18歳!
彼も12歳でプロのスノーボーダーになったという実力の持ち主。
彼らの堂々とした競技っぷりは、エックスゲームやワールドカップなど、
海外の有力な大会で首位を争ってきた感が満々です。
それにしても、ソチで金メダルに輝いたユーリ・ポドラドチコフが、
敗れた王者ショーン・ホワイトと抱き合い
感涙にむせびお互いに讃え合っている新旧交代の儀式の後ろで、
銀・銅受賞の2人の少年たちがポカンとした顔で座っていたのが印象的。
まるで、スーパースターの終焉(かも知れない)という感動シーンに、
偶然映り込んでしまった中高生のにーちゃんたち、
みたいな絵がほほえましかったこと。
あとで松岡修三に「交ざるかと思ってたけど行かなかったね」
と突っ込まれた平野くんが
「あんま、イエーとか言うタイプじゃないんで」とつぶやいてたのがおかしかった。
イエーは言わないけど6mもジャンプするスノーボーダー。
まさに「恐るべき子供たち」です。
そして今回の感動は、羽生結弦くんの金メダル受賞や、
葛西選手のレジェンドぶりももちろんですが、
なんといっても浅田真央ちゃん!
ショートで転倒してまさかの16位スタートから、
フリーで全6種、計8度の3回転ジャンプをすべてクリアして、
最終的に10人ゴボウ抜きの6位入賞!
演技終了直後、ピンと張った真央ちゃんの背筋と足が震えだし、
表情が崩れて泣き顔になった瞬間、
全日本がいっせいにもらい泣きしたと思います。
「あんたが『感動部門金メダル』や!!」という。
転んでも転んでも立ち上がって走りだす。
そんな姿に自分を重ねる、だから日本人は浅田真央が好きなんだと思います。
ところで2020東京オリンピックのテーマソングは、誰が作って歌うのか?
それが今一番気になっているところ。