この春は自分を仕立ててみよう。


クリスマスから年末年始へと続いたイベントシーズンも
やっと落ち着いた頃ではないでしょうか?
ここしばらくの飲み過ぎ・食べ過ぎを後悔して、
ウエイトコントロールをはじめる方も多いのでは?

服をおしゃれに着こなすには、ボディラインが重要、という考え方があります。
事実、ショップなどで一枚の服に一目惚れしつつも、
自分の体型では無理かもと泣く泣くあきらめる、
そんな経験はほとんどの方にあるかと。

確かに、スリムだったり、小顔で手足が細長かったりすれば、
どんな服を着ても似合うし、
それなりに着こなすことができます。
モデルさんがパリコレで拍手喝采を受けたバルーンワンピースも
私が着たらどう見てもゆるキャラの着ぐるみにしか見えないとか。
でも、ショップのマヌカンの方は、ショーモデルより小さくても、
それなりに着こなしていたりします。
てことは、やっぱりボディラインと顔のサイズと雰囲気がモノを言うのか?
などなど、服とボディラインの関係は、
おしゃれを意識する上で、つねに目の前に立ちはだかる大きな壁です。

そんなとき、少し勇気を与えてくれるのが、
「The Sartorialist」という本です。
ご存じの方も多いと思いますが、
これは、同名の人気サイトが紙媒体になって出版されたもので、
オンライン同様、とても支持を集めているようです。
この写真のものは一冊目ですが、現在、3冊まで出版されています。
著者のスコット・シューマンは、独学で写真をはじめ、
ファッションに興味があったものの、いわゆるファッション写真ではなく、
ストリートで出会うおしゃれな人たちを撮ることに興味があったといいます。
彼が選ぶ人は、それこそ世界的なセレブやファッショニスタもいますが、
チマタの無名な人々がほとんどでした。
中にはいわゆるおデブさんや、
体型的に見て、まずモデルは無理という人も大勢います。
でも、それぞれにその人らしいおしゃれをしていて、
全員、迫力も説得力も魅力も抜群です。
スコットは彼らの写真を載せたストリートスナップのサイトを
2005年にスタート。
以来、世界中のファッション大好きさんたちの間で評判となり、
今では一日で10万ビュー以上あるといわれ、
彼は「世界で最もデザインに影響を与えた100人」に選ばれたり、
ベストブロガーに選ばれたりしています。
サイト名と著書名の「The Sartorialist」は、仕立人というような意味。
そう、服を仕立てる人です。
登場している人たちは、実際に自分で服を仕立てているわけではありませんが、
(中にはそんな人もいるかもですが)
自分に似合うものを探して組み合わせて着こなすことが、
自分を仕立てることになる、そんな意味合いではないかと思います。
サイトや写真集には、若い人からおじいさん・おばあさんまで、
経済力を感じさせる高級スタイルから、
およそ経費をかけていないエコノミースタイルまで、
さまざまな人たちが登場しますが、
共通しているのは、全員、着るものにこだわっているという風情。
一見してそれとわかる小粋なファッショニスタのみならず、
一見見逃しがちなヨレヨレ風のじーさんが、
よく見れば相当こだわってアイテム選びをしているのがわかります。
服を着ることの楽しさや装うことは、
今日何を食べるかということと同じ、すなわち人生だということを、
改めて思い知らされるサイトであり写真集です。

スタイリングを集めるというフィールドワークは、
民俗学的にもすこぶるおもしろい企画という気がします。
写し取られているのは室内空間や生活スタイルそのものではないにせよ、
人は服を着てそこに立っているだけで、
その人の生活環境をも背負っているんだなと感じさせます。
つまり、服は人生そのもの。
だからこそ、ストリートスナップはおもしろい。
ちょっと体重過多でもおちびちゃんでも痩せすぎでも顔が大きくても、
つまりアンチファッションな体型でも、
「これが私なのよ」という意識さえあれば、
おのずと選ぶものもその人らしさが出て、
その人にしかできないスタイリングが生み出されて、
説得力と魅力が出てくるものだと。
「The Sartorialist」には、ファッションのひとつの答えがあります。

サイトを見ているだけで、スタイリングへの意欲が湧いてきそうです。
この春のスタイリングの参考にどうぞ。

写真集は、 ”The Sartorialist” Scott Schuman   Penguin books
サイトは、 http://www.thesartorialist.com/
です。ご覧あれ。

賀正

あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さてさて、今年はトランプ新大統領が誕生します。
オバマさんが大統領に就任したときの、
世界がリベラルで開かれた方向に行くかのような印象とちがって、
保護主義的な方向に向かって行くような印象があります。
とはいえ、実際にオバマ政権以降で世界はリベラルさを増したかといえば
とくにそうとも言えないし、
トランプ政権で世界がどう変わって行くのか、
今はただ世界が穏やかでありますようにと祈るしかありません。

とりあえず酉年の年が明けました。
酉の市、お酉様でも知られるように、
酉は商売繁盛を招く福神です。
古来、「酉」という文字は穀物の結実や収穫を意味していたといわれます。
すべての意味で実り多き年でありますよう。

トランプ前の静けさ。

IMG_0264hiroba大方の予想を裏切って、まさかのトランプさん勝利から早半月。
この結果が吉と出るか凶と出るか、世界が知るのはいつになるのでしょう。
その昔、アメリカの左翼主義活動家、ジェリー・ルービンの
”DO IT! 革命のシナリオ”という本を読んだとき
(ロック好き女子高生の頃ね)
「アメリカの大統領が世界情勢を左右するんだから、
米大統領選にはアメリカ人だけでなく、
世界中の人が投票できるシステムにするべきだ」
と書いてあってびっくりしたことがあります。
まだ世界情勢にうとかったこともあるし、
米大統領にそれほどのパワーがあるという実感もなかったので、
アメリカ人の意識の中でのアメリカや大統領の偉大さを
見せつけられた思いでした。
あれから長い長い時が流れて、今は実感しています。
アメリカの大統領がもたらす世界への影響を。
それにしてもトランプさん、あのスーツ姿はどうにもこうにも。
イタリア製の数十万もするスーツと知って逆に驚いたくらい。
質感とか色合いとかシルエットとかに、まずエッジが感じられない。
シャツもいいものなのだろうとはお察ししますが、
いつも白で変哲もなく、タイにいたっては(以下略)……。
オバマさんが大統領になったときのスマートさ、
スーツやシャツ、タイのセレクションのスタイリッシュさが懐かしい。
まあ、トランプさんは人生にファッションセンスは、
無関係という方なのでしょうし、
有名になれば女の子は自由になるというお考えらしいから、
そこでもオシャレなスーツなんて関係ないのかも知れません。
トランプタワーにある自邸のインテリアもパワフルです。
トプカピ宮殿かパルテノン宮殿か?!というような、
大理石の円柱のある金ピカのリビング、
天井にはルネッサンス風天井画あり。
でも、ペントハウスとはいえマンションの一室で築30年以上だから、
インテリアの様式に対して天井が低過ぎ。
でも細かいことは気にしないトランプさん。
ファッションにもインテリアにもあまりスタイルを求めない方らしい。
スタイルのよさが重要なのは女性だけのようです。

ちなみにファッションとインテリアは切り離して考えられないものだと思います。
何を着て暮らすかということは、
どんな部屋に住むかということとイコールのはず。
それはもちろん、お金をかけるかどうかの問題ではなく、
どれを選ぶかということです。
バッグは奮発してGucciだけど、ベッドは『無印』でも問題ない。
その人のスタイルやテイストがそこにあれば、衣と住は重なるはず。
私は電車内で前に座った人の服装や持ち物を見ると、
自動的にその人の住環境が重なって見えるタチ(勝手な妄想ともいいます)。
人は住環境までを身にまとって歩いていると思っています。

そんな私には見逃せない企画、
「モードとインテリアの20世紀展ーポワレからシャネル、サンローランまでー」
に先日行ってきました。
会期期限の終了が迫り、主にインテリア目的で、滑り込んだものの……。
展示物はファッション中心で、インテリアは1900〜1960までの
当時の室内をイラストで再現した数点のパネルのみ。
唯一、「1940-1959」の展示室にイームズのシェルチェアが置いてあって
「ご自由にお座りください」と書いてあったけど、
これ、いまどきは「うちにあるんですけど」率の高いチョイスですよね。
そこらのカフェでもありますから。残念です。
何年か前に芸大の美術館でバウハウス展を見た時は、
家具もあったし、確かキッチン含む室内の再現展示もあったような。
そういうのを期待して行ったのですが。
今回は島根県立石見美術館のコレクションの展示ということで、
多分そこはファッションが中心で、
インテリア関連のコレクションはないのかも知れませんが、
展示会名に「インテリア」を入れる以上、
ヌーボーもデコも60’も、少しは家具や雑貨を揃えて欲しかったような。
とはいえ「1960’s」の展示室でアンドレ・クレージュのドレスやブーツとともに、
クレージュがかつてデザインに携わったミノルタ製のカメラが展示されていて、
これが見られただけでももう満足です。
そのポップさ、かわいさときたら、今発売されても人気が出そうというアイテム。
ちなみにそのカメラ、デザインが70年代ぽいなあと思っていたら、
調べたところ、1983年の製品でした。あらあら。

会場の『パナソニック 汐留ミュージアム』があるのは、
日テレの社屋も、話題の電通本社ビルもある、高層ビルが立ち並ぶ再開発地区。
渋谷・新宿・六本木、あるいは銀座あたりともちがう、
過去の影がない、近未来感漂う街です。
ビルの谷間を新交通システム「ゆりかもめ」がすり抜けていく景色に、
鉄腕アトムの漫画の世界がいつの間にか現実になっているのだと改めて認識。
近くのビルのTOWER RECORDで女の子アイドルが握手会と、
インストアライブを開催していました。
初老のおじさまが嬉しそうにミニスカートのアイドルと
握手していたりして、世の中、まだ平和のようです。
オバマ政権が終幕に向かう中、汐留はいたって静かでした。

写真は、「1920-1939」時代の展示室。
マネキンの背後のパネルがインテリアの展示ということでした。
ミュージアムの近所のビルのパティオ。
雨模様とはいえ週末の午後。それにしては人もまばらな近未来の街です。

答えは風に吹かれているらしい。

今年のノーベル文学賞をボブ・ディランが受賞したということで、
世界中が驚いたのではないでしょうか。
いうまでもなく、ディランはミュージシャンですから。
私もニュースで知ったときは「え?ディランて小説書いてたんだ?!」と思いました。
知らない間にそれが出版されていて、評価の対象になったのかと思ったし、
ディランほどの人なら、興味深いものを書くだろうし、
読んでみたいと思ったのでした。
ところが、受賞の対象は一連の楽曲における歌詞だというので、またびっくり。
彼の偉大さや文学性も認識しているつもりではあるけれど、
ノーベル文学賞を選考するような人たちがそれを評価するということは、
やはり驚きでした。
選考の理由は「アメリカの輝かしい楽曲の伝統の中で、
新しい詩的表現を生み出してきたこと」
なんだそうです。
確かに、60年代の欧米のポップミュージックの歌詞といえば、
「道を歩いていたら、向こうからすげえかわいいコがやって来たんだ。
俺はもう一目惚れ、心はウキウキ、思わず口笛を吹いたぜ」
みたいなお気楽なものがほとんどでした。
そこに「どれほどの道を歩けば、人は彼を男と認めるんだ?」
という歌詞をひっさげて登場したのですから、
道を歩くのはかわいいコに一目惚れするためと思っていた連中にしてみたら、
え?そうくる?みたいな新鮮な衝撃だったのではないでしょうか?
ビート文学の騎手であった作家アレン・ギンズバーグも、
ディランの詩を文学的だと賞賛したと言います。
ディランが登場した1960年代初期から後期にかけては、
若者文化が大きく変わろうとしていた、
あるいは、世界は変わるんだと誰もが信じていた、
そんな空気に満ちていた時代でした。
それまで、娯楽一辺倒だったポップ・ミュージックに、
芸術的な音と哲学的あるいは叙情的な詩を持つ、
独特の世界を表現する人たちが増えていきました。
そのムーブメントの中心にディランがいたように思います。
当時の多くのミュージシャンに影響を与えていて、
あのデヴィッド・ボウイもHunky Dory”というアルバムの中で
“Song for Bob Dylan”という曲を書いているのですが、
内容はともかく曲調や歌い方がまさにディラン調。
ディランの曲をカバーする人たちも続々登場しました。
ノーベル文学賞がボブ・ディランに決まったと発表した、
選考委員である大学教授サラ・ダニアスさんは、
記者から「あなたはボブディランを聴いたことがあるのか?」と聞かれて、
「ものすごく聴きこんでいたわけではないけれど、
彼の音楽はいつも身の回りにありました」
というような感じのことを言っていました。
さらに続けて「多分、世代の問題ではないでしょうか?
私はデヴィッド・ボウイのファンでした」
といったので、その回答にびっくり。
一見、全くそんな感じに見えないマジメそうな女性で、
人は見かけによならいと思ったものです。
デスメタル系のバンドのライブで大手企業のOL風のお姉さんが、
いきなりヘドバンをはじめてびっくりすることがありますが、
見かけによらない&人に歴史ありと思わせてくれます。
ともあれ、音楽の歌詞であっても、文学性に満ちたものは数多い。
日本のミュージシャンの詩にもさながら純文学のような歌詞が多々あります。
「最後の白い鳥は何を餌に生き延びてる
新月の蒼い海を確かめるように高く低く、
殻が割れるまでどこかで見ているように
生まれたらすぐにさらいに来るかのように
行く人 来る人 誰かを待つ人 もうすぐ始発のバスが来る
心が心を許せる時には、どうして姿形はないんだろう」
というのは吉井和哉というミュージシャンの”Hearts”という曲の歌詞ですが、
言葉の先から広がる世界観の鮮明さは、たちまち引き込まれる魅力的な小説のようです。
ミュージシャンになっていなかったら、
純文学の作家になっていたかもと思える人々もいる中、
逆に19世紀のフランスの詩人アルチュール・ランボーなどは、
現代に生まれていたら絶対パンクミュージシャンだったんだろうなと思います。
「骸骨たちが踊り狂う、もう踊りだか殴り合いだか知ったこっちゃない、さあ、踊れ」
という詩なんて、実にパンクです。
そういう意味ではボブ・ディランがノーベル文学賞をとっても不思議ではないのですが、
毎年受賞を取りざたされる本職の作家さんたちの身になってみれば、
なんとも鼻白む思いではないでしょうか?
しかも、受賞後、ディランは2週間もノーベル賞の財団に連絡しなかったし。
結局、連絡して快諾したというので一件落着と相成ったのですが、
なんですぐに連絡しなかったのかは謎のまま。
答えは風に吹かれているのでしょう。
私は、一部のディランファンのように
「彼はストイックだし権威を嫌うからこんな賞なんて許否するに決まってる」
とは思いませんでした。
ディランて、結構俗っぽい人なんじゃないかという印象があります。
理由は2つ。
まず、彼が昔つきあってた彼女がイーディ・セジウィックだったこと。
イーディーは60年代にアンディ・ウォホールの映画に出ていた、
当時のファッションアイコンでありいわゆるパーティー・ピープルです。
今見てもかわいいしファッショナブルだしカッコいい女の子だと思うけれど、
いわゆるボブ・ディランなイメージとは真逆な存在。
彼女とつきあっちゃうわけだ、ディランて、とそれを知った時思った次第。
もちろん、そんなディランをおもしろい人だなあと思ったのですが。
二つ目の理由は、ディランが60年代にロンドンでライブをしたときのこと。
当時「イギリスのボブ・ディラン」と言われていた、
フォーク・シンガーのドノバンが、ディランのコンサートを見に来ました。
するとディランは楽屋で「ドノバンは来てるのか?」と、
かなりナーバスな感じで気にしていて、
一方、ディランに会ったドノバンは淡々としていて平常時な感じ。
というシーンをドキュメンタリーフィルムで見たのですが、
普通なら二番煎じと言われているドノバンのほうが緊張して、
ナーバスになっていていいはず。
ところが緊張しているのはディランのほうだったので、
この人は案外生々しい俗っぽさがある人なんだと思って、
そこから、それ以前より好きになったのでした。
ストイックな印象の裏の生々しさというギャップがいいですよね。
その逆でもいいけれどね。
そんなボブ・ディラン。イーディとつきあうくらいだから、
オシャレにも敏感な人であるはず。
細身のジャケットや細身のジーンズが特徴ですが、
それは今のファッションにも通じるものがあります。

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DYLAN_3_4

写真は
1,2
アルバム”Highway 61 Revisited_1965”の表と裏。
トライアンフのノベルティーTシャツに、ちょっとサイケデリック感のある柄物シャツ。
曲は、”Like a Rolling Stone “ほか。
時は東京オリンピックの次の年。

3 
同アルバムCDの中に掲載されていた写真。
タイトなジャケットにタイトなパンツ。


ポスター。
アルバム、”Bob Dylan’s Greatest Hits_1967″のオマケについていた。
伝説のグラフィックデザイナー、ミルトン・グレイザー作

photo&information by H.H.

昭和の家に未来を見る。

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先日、取材で、東京都小金井市にある江戸東京たてもの園に行って来ました。
ここは墨田区にある江戸東京博物館の別館で、建物を専門に展示する野外美術館です。
約7ヘクタールの園内には江戸時代から昭和初期までの歴史を物語る建物が30棟、
元の場所から移築・復元されて建ち並んでいます。
藁葺き屋根などの古民家を移築した古民家園と違って、
ここのおもしろい所は、大正や昭和初期のモダン民家や
昭和の風情を伝える商家まで移築されているところ。
モダン住宅が並ぶ一角はまるでレトロなお屋敷町のようだし、
大正や昭和の商店が並ぶ一角は、歴史の彼方にタイムトリップした気分。
建物ズキ、住宅ズキの私は、この施設が大好きで開園当初は何回か通いました。
ここ14〜5年は行っておらず、久しぶりに行って見ると、
移築・復元されてからの長い年月、風雨にさらされてきた建物は風格を増し、
そして町並みはよりリアルなたたずまいになっていたのでした。
園内は3つのゾーンがあり、東ゾーンは昔の商家やお風呂屋さん、
酒屋さんや文具店などが並んでいます。
中央ゾーンは郷土資料の展示コーナーや、2.26事件の舞台となった高橋是清邸など、
歴史的な建物が移築されています。
そして今回の取材のお目当てのひとつがある西ゾーン。
ここにはさまざまな建築様式で建てられた、
大正から昭和初期のモダンな住宅が並んでいます。
中でも私のお気に入りが、前川國男邸です。
前川國男はル・コルビュジェの元で修行したこともあり、
戦後の日本の近代建築をリードした建築家として知られています。
その自邸として、品川区上大崎に1942(昭和17)年に建てられた住宅。
これが典型的な日本のモダニズム建築で、切妻屋根や障子を思わせる格子窓など、
和のテイストを取り入れつつモダンに仕上げてある名建築なのです。
リビングダイニングに書斎と寝室、ごく小さなキッチンというシンプルな作りで、
デザイン的にはまさに今の住宅の主流ともいえるスタイルです。
今から74年も前に、プロトタイプが生まれていたことに驚きます。
さらに、そのコンパクトさとたたずまいは現代なら、
ちょっと余裕のある一般人でも建てられそうな規模です。
著名にして売れっ子の建築家の家とあらば、今ならさぞや豪邸で、
とても庶民に手が届く類のものではないはず。
しかもこの家、この規模で、玄関脇に女中さん用の小部屋があるのです。
今昔の文化や暮らしの違いに思いを馳せてしまいます。
そして、この家の中で前川國男巨匠は、
いったいどういうファッションでくつろいでいたのか?
現代なら、この手の家にいる人はTシャツにジーンズか、
ジャージ素材のパンツでくつろいでいるはず。
前川さんのくつろぎスタイルは和服だろうか?
ドレスシャツにノータイくらいのカジュアルさだろうか?
でも外出時は当然、三つ揃いスーツに革靴、ハット着用とかでしょうか?
などなど思いを馳せていると、もちろん、デザインやサイズの違いはあっても、
基本、74年後の今もほとんどの男性はシャツにスーツ、革靴を履いて仕事に赴く、
ことに気づきます。
変わったのは、家にいる時のくつろぎスタイル。
着るものって、プライベートシーンから変化して行くのだと
今更ながら思いました。
今から74年後、人類は家で何を着てくつろいでいるのでしょうか?
まだ人類は地球にいるのでしょうか?
などなど、昔の日本の家や暮らしを見ていると、
思いはいつの間にか未来を見ていたりするものですね。

*写真は前川國男邸の外観と内観。
リビングには中二階があります。以前は上まで行けたと思うのですが、現在は禁止。
なんと言っても築74年ですから。
家具もすべて建築家のデザイン。ちょうちん型の照明のみイサム・ノグチで、
巨匠コラボです。

これが私です。ポール・スミス展

仕事部屋
展示会場−1

上野の森美術館で開催された「ポール・スミス展」に行ってきました。
ポール・スミスは言うまでもなく、
イギリスを代表するファッションデザイナーです。
そのデザイン傾向がすぐに思い浮かばないとしても、
同名のブランドのシグネチャーデザインとも言える、
マルチカラーのストライプをモチーフにした財布などのファッション小物は、
日本でもポピュラーなアイテムではないでしょうか?
ポール・スミスは70年代中期に、イギリス中部の都市、
ノッティンガムに小さな小さなセレクトショップをオープンしました。
徐々にオリジナルを作りはじめて人気を博し、
80年代には東京やニューヨークにも進出しました。
伝統的な英国スタイルのジャケットで、
裾部分が異素材に切り替えてあったり、
身頃や袖全体に大胆な花模様の刺繍が施されていたりと言った、
彼ならではのスタイルで注目を集め急速に売上を伸ばして行きました。
その世界的な活躍を評価されて94年にはエリザベス女王から勲章を授与され、
さらに97年には若きブレア首相のスーツを担当、
当時世界中の若者に影響を与えたイギリスのアートやデザイン、
音楽などを総称したクール・ブリタニアムーブメントの立役者でもあります。
現在は日本のビジネスマンにも愛用されるブランドだけに、
花柄や写真プリントもスーツの表地ではなく裏地に使われている状態ですが、
遊び心はそのままという気がします。

そんなポール・スミスは、コレクターとしても知られています。
今回のポール・スミス展は、コレクションも少しは展示されていますが、
メインは彼が集めた絵画やポスターはじめ、腕時計、自転車、
日本の食品サンプル(おなじみのフォークが宙に浮いているスパゲッティ)
ほかさまざまなアイテム。
中には、彼のコレクション好きを知っているファンたちが、
郵便で送ったモノまで切手を貼られたままで展示。
インドぽい象の置物や怪獣、夜店にありそうなビニールのイカ、
ボーリングのピン、コオロギやバッタの置物、などなど。
絵画は泰西名画と言ったものから50〜60年代のポップな様式で描かれた、
スタイル画ぽいもの、本人やほかの人が撮った写真、
モダンアート的なものから子どもの落書き、広告、雑誌の切り抜き、
海外のおみやげの包装紙などなど、
もう本当に種々雑多なものが額装されて展示されています。
物集めっぷりに共感を覚えつつ、
さぞや保管場所に苦労されているのでは? と、そこにも共感。
また、再現されている彼のオフィスもモノだらけ。
今、日本の一部ナチュラル志向派の間では空前の
「モノを持たない暮らし」ブームですが、
そのムーブメントに乗りきれないモノマニアな私としては、
「おお、同志よ!!」という心境で見せていただきました。
彼の仕事部屋に続いて再現されているアトリエで、
スタッフが使っているパソコンは最新のMACですが、
ポールの仕事場に置いてあるのは初代 iMAC。
90年代後期に登場したオールインワン型パーソナルコンピューターで、
曲線を活かしたデザインとブルーやオレンジなどの
カラフルなカラリングで一世を風靡した名機です。
我が家の押入れにもまだあり、
手放すことが出来ないのはポールと同じですが、
まさか、これ、現役で使っているわけじゃないよね?
とにかく、見ていて楽しい展示会です。
タイトルの「HELLO! MY NAME IS PAUL SMITH」というのも、
いかにも彼らしいと思います。
彼はパーティーや何かの集まりに出向くと、世界的なデザイナーであるのに、
無名の若者や誰だかわからない人にも自分から気さくに話しかけて
「HELLO! MY NAME IS PAUL SMITH,I’m a fashion designer」と、
自己紹介をするのだそうです。
そして思い出すのは、2011年3月のこと。
東日本大震災後の原発事故の問題から、観光客はじめ外国人の方々が、
東日本エリアから続々脱出、関西や国外へと避難して行きました。
来日を中止したアーティストもたくさんいました。
その中でポール・スミスは急遽来日し、
日本国内のブリティッシュ・カウンシルの責任者と
you-tubeに動画をアップ。
「日本は安全です。変わらず躍動しています。
日本でのビジネスを考えていた方、
今こそぜひ、日本に来てください!」
と声明を発表。日本のためにひと肌脱いだ形ですが、
これも彼一流のビジネスセンスなのでしょう。
モノと人をこよなく愛する、その情熱でビジネスを進めていく。
そのスタイルが多くの人を惹きつける要因だと思います。
そういえば、you-tubeに登場したときの第一声も、
「HELLO! MY NAME IS PAUL SMITH,I’m a fashion designer」
だったと思います。
数年前、日本版エル・デコとのコラボ企画で、
ポールが表参道の彼のショップ「SPACE」のギャラリーに、
椅子を展示したことがありました。
これは、ロンドン近郊の街に住む人々を、服の違いで特徴づけ、
それを椅子にデコレーションして展示するという試み。
たとえば、メイフェアという高級住宅街に住む老夫婦、
イーストエンドという、かつての低所得者居住地が
今や注目のサブカルエリアになっている街に住む若いカップル、
あるいは、郊外で子育て中の若い夫婦の4人家族などなど、
それらしい服やアクセサリーをまとった椅子が、
それぞれの地域のライフスタイルを表していて、
とてもおもしろい企画でした。
その時私は編集部から、それぞれの椅子が表す人たちに、
ストーリーをつけて欲しいと頼まれました。
たとえばイーストエンドの若いカップルなら、
夜な夜なクラブに行って、酔っ払って喧嘩になり、
彼女の方が彼氏を蹴飛ばす、というような物語を書き、
それぞれのストーリーをプリントしたパネルが、
椅子とともに展示されました。
この企画からもわかるように、彼は地域の持つ違いや特性を
とても大事にする人です。
今回の展示会には世界中で展開している、
ポール・スミスショップの写真も展示されていますが、
それを見ると国や街の個性に合わせて、
外観や内装が変えられていることに驚かされます。
ロンドンのあるショップはいかにも伝統的な
ブリティッシュなたたずまいで、
パリ、サンフランシスコ、ローマなども、それぞれ、
その街の個性や魅力を反映したショップになっています。
京都のショップは古民家を使っていたり。
直営ショップは世界共通の外観やインテリアで統一するブランドが多い中、
地域に溶け込む店作りを推進する、いわば郷に入れば郷に従え方式の、
それがポールの個性なのだと思います。
それぞれの違いを尊重しながら、それを自分のパワーや魅力に加えていく。
集めまくったほかの人達の作品で自らを表してしまう。
「Hell!I’m Paul Smith」
そして私はこれらすべてです。
と言わんばかりの、とても刺激的な内容でした。
この展覧会は世界を巡業していて、東京は京都に続き開催、
このあと名古屋に行くそうです。

館内は撮影自由なので、入場者はほとんど全員撮影していました。
写真上は、再現されたポールのオフィイス。
ポップでキッチュ、永遠の子ども部屋テイストと、
日本のアンティークの箪笥のミックス&マッチが印象的。
写真下は、彼が集めた絵画や写真のコレクション。この壁面が延々続きます。

活躍するユニフォーム

暑い日々が続いております。
気温的にもオリンピック的にも。
ニッポンのメダルラッシュも勢いに乗っていて、
90年ぶりだの30年ぶりだの、歴史を塗り替える勝利の連続です。

リオが開幕する前は、現地の準備不足や、
反対派の「地獄へようこそ」のプラカードや、
デモ隊が聖火を打ち消してしまうなどの
数々のアンチな事件が報道されていました。
2020の開催を待つ東京でも、決定時のお祭気分はどこへやら、
競技場やロゴの白紙撤回を経て、国民の間でシラケムードが高まっていた矢先。
リオの開会式を見たとたん、やっぱりオリンピックのチカラってすごいなあと
実感させられました。
南米初の五輪開催ということで、
それが決まったときは好景気の上り調子だったブラジル。
ところがその後バブルが弾けて、今、五輪開催どころではないという状況に。
そんな中、当初より大幅に予算が削られたというのに、
サンバのミュージシャンやストリートパフォーマーが
広い会場で圧巻のパフォーマンスを見せてくれたし、
国の歴史を振り返るストーリーの演出も見応えありました。
低予算でもアイデアと想像力さえあればこんな素晴らしいことができると
改めて納得。
そしてはじまった選手入場。
何がすごいって、世界、205の国と地域が参加して、
それが一堂に介してパレードするわけで、そんなイベントはやはり五輪のみ。
各国の「いついつ独立しました」とか「国名が変わりました」とかの豆知識も
同時に知ることができて楽しい限りです。
そしてこのコラム恒例のオリンピック開会式選手団ユニフォームレポですが。
全体的な印象として、今年はモード的にチャレンジしている国が、
多かったように思います。
まずカナダ。背中に同国のシンボルでもあるカエデの葉のモチーフを
大胆にあしらった赤いジャケット。
その下には白いTシャツを合わせているのですが、
シャツのすそは後ろがタキシード風につばめの羽根のように先が割れていて、
さらにジャケットより長いのですそから出る仕組み。
ボトムは細身のネイビーのパンツで、そのスタイリングはどことなく、
あのお騒がせミュージシャンのジャスティン・ビーバーを思わせるイメージ。
確かにカナダはジャスティンの故郷なのでした。
次に印象的だったのがUSA。
例年通り、ラルフ・ローレンのプロデュースということで、
ネイビーのジャケットにトリコロールの太いストライプTシャツに
ホワイトジーンズ(一部ブルージーンズ軍団も)、
トリコロールカラーのデッキシューズというスタイリング。
オリンピックの選手団入場行進というより、
GAPの広告かと思えるカジュアルスマートさでした。
(GAPは広告モデルに個性的な風貌の一般人ぽい人を使うのでなおさら)
しかも、メンズもレディースもボトムはパンツで、ユニセックスがコンセプト。
オリンピックといえば、スポーツウェア風のユニフォーム以外は、
男子はパンツ、女子はスカートが主流。
民族衣装風のユニフォームも同じように、男女の差があるスタイル。
そんな中、今回はUSAはじめ、いくつかの国で、
ユニセックスなユニフォームが採用されたのが印象的でした。
そして昨年に引き続き、ステラ・マッカートニーのプロデュースによる
英国選手団のユニフォームは、
男子が淡いブルー系のボタンダウンシャツにネイビーのピーコート風ジャケット、
白い短パン。
女子が白いサファリジャケット風の下にネイビーの箱ひだ風ミニスカート。
こちらも一見GAP風カジュアルテイストでした。
一方、モードを意識したハイブランド風ユニフォームだったのがモナコ。
白いシャツにネイビーのネクタイ、
エンブレム付きネイビーのブレザーにカーキがかったベージュのパンツ、
黒い革靴と、徹底したダンディースタイル。
イタリーもまたファッション雑誌の広告風で、
さすがは御大、アルマーニによるもの。
濃紺でバギー風太いパンツのオールインワン。
こちらもユニセックスでした。
変わり種では、一部の海外メディアに
「ハリーポッターの魔法学校の制服みたい」と評された、
モンテネグロ女子のワンピースとジャケットのユニフォーム。
サックスブルーという色やミニのフレアスカートにカンカン帽というキュートさ。
かわいい割にどんな体型と顔つきの女子でもカバーできる
制服ならではの汎用性があるのも魅力です。
ともあれ、開催国のブラジルもトロピカルなプリントのシャツやブラウスを採用し、
ファッショナブルに仕上げていたというのに。

どうしたニッポン!!

赤いジャケットに白いパンツ。そしてそのシルエットや全体の仕上げは……。
え?前回の東京オリンピックのときの使いまわし?
というくらいのレトロ感漂うユニフォームでした。
なんでコレ?
日本って、一応、まだ、先進国ですよね?
クールジャパンというキャッチコピーもあり、
ファッション先進国でもある、その国のユニフォームがコレ?
この後ろ向きかつ保守的なユニフォームに、
今の日本の関係各所のリーダーたちの自信のなさが見えているようで、
少し寂しくなりました。
「変なデザインにして叩かれたくない」という思いが見え隠れします。
じゃあ、変なのにしなければいいのに、とも思いますが、
でも、それをジャッジすることも難しく、
どうしても中庸なものに流れてしまうのかも知れません。

それにしても、ロンドンオリンピックからもう
4年も経っていたことにも驚きます。
とすれば東京オリンピックももすぐそこ。
今年の日本の選手たちの大活躍のように、
4年後の開会式の演出や、
ユニフォームが大活躍してくれることを祈る次第です。

夏のスタイリングに最強シャツ登場!

今年の夏は数年ぶりの猛暑の気配。
7月に入ったばかりなのに、全国的に30度超えの真夏日が続きました。
立っているだけで汗がダラダラ吹き出てくる、
こんな季節には半袖のシャツさえ生地を選んでしまいます。
綿や麻といった素材でも、少し厚手だと風が通りにくくなり、
体の熱気が生地との間にとどまってしまうような感覚。
ですからこの時期は綿や麻でもついつい、
長年着た洗いざらしの、風通しのよい素材のものを選んでしまいます。
とはいえ、ビジネスシーンなどでは、
洗いざらしというわけにも行きません。
そんなときにおすすめなのがカットソー素材のシャツです。
目の詰まった布帛(布地)のシャツより、だいぶ涼しく感じられます。
とくにおすすめなのが鹿の子素材のポロシャツ。
元々はスポーツのポロをプレイするときのウェアとして生まれたと言われ、
乗馬してボールを操る選手がロゴデザインになっているブランドがあるのはそのため。

現在はテニス選手のウェアになっていたり、
昨今の省エネ・クールビズ時代ではビジネスシーンで着用している人も多いと思います。

とはいえ、衿や袖口がリブ(ゴム)編みのポロの場合、
どうしてもスポーツウェア的なカジュアル感が出すぎてしまいます。
その点をクリアして、きちんとした印象を醸し出せるのがドレスポロの存在です。
ポロシャツと同じ鹿の子素材を使っているので、通気性や伸縮性もよく、
汗をかいても布帛(布地)のように肌に密着することもありません。
それでいながら、通常のポロとドレスポロが大きく違う点が前立て部分にあります。
土井縫工所から7/7に販売開始されたばかりの新作ドレスポロは、
裏前立仕様にすることで、フロントがすっきり。
襟元がきちんとした感じに見えるのでビジネスシーンにもすんなり。
襟もボテッとした感じになるのを避けるために芯をなくし薄くて繊細な仕上りに。
さらに、スリットのないスクエア形状のボトムにすることでドレス感が増しています。
素材はクールマックスの鹿の子(コットン×ポリエステル)を使用。
これは通気性がよいため、汗を吸収しやすく速攻で乾くという、
ニッポンの夏には心底うれしい素材とアイテムです。
1日着ていても汗のベトつきが気にならず、さらさら感覚が持続。
着ている本人はもちろん、まわりの人にも好印象を持ってもらえそうです。

さらにもう1点、土井縫工所のドレスポロが普通のポロシャツと異なる点は?
ボディサイズがタイト!
これまでポロシャツというと、身頃がもさっとしているタイプが多かったので、
それで避けていたという人も多いはず。
このドレスシャツならスッキリスマートなスタイリングが可能になります。

チノパンやコットンパンツと合わせた王道スタイルのほか、
少しヒップボーン気味で細身のボトムと合わせた今風なスタイルもおすすめ。
あえてシャリ感のある麻や光沢感のある素材のボトムを持ってきて、
よりスタイリッシュに仕上げるのも楽しそうです。
ジャケットを合わせるなら、細身のイタリアンで。
色々使えて、しかも猛暑も気にならない。
この夏の最強アイテムと言えそうです。

http://www.doihks.jp/product/entry/polo.html

夏はクール&スタイリッシュに

蒸し暑い日が続きますね。
もはやセミトロピカルともいわれる日本列島は、
これから夏に向けて「ファッション制限」がかかってくる状態。
おしゃれ感やTPOを外さない程度に、
気候風土に合わせたスタイリングを考えていきたいものです。

そんなスーパーウエット&ホットな日本の夏に、近頃印象的なのが、カジュアル過ぎないショートパンツのスタイリングです。
ショーパンすなわち「短パン」というと、どうしてもラフな普段着や、
あるいはリゾート感満載になってしまいがち。
でも、最近印象的なのが、Tシャツや、
ラフなカジュアルシャツを合わせるのではなく、
きちんとした感じのドレスシャツを合わせている男子の姿です。
たとえば、ロンドンストライプのシャツに白いコットンのショートパンツを合わせ、
バックスキンのローファーなどというスタイリング。
この際、シャツはパンツにインして比較的上質な革ベルトをしたいところ。
ベルトと革靴の色目を揃えるとスッキリします。
あるいはショートパンツ×ドレスシャツにボウタイを締めるのも今年風。
サックスブルーなどの無地のシャツのほうがボウタイを合わせやすいかも。
比較的タイト気味なパンツのほうがボウタイとの相性がよさそうです。
パンツはカットしたジーンズなど思い切りラフなアイテムにして、
あえてシャツをパンツの外に出し、
靴下をきちんと履いて靴紐のある革靴を合わせる。
カットジーンズ以外のアイテムをきちんとしたもので揃えることで、
ミックス&マッチなスタイリングが楽しめます。
さて、やはり今年のトレンドとして注目したいのがショートパンツのスーツ。
ジャケットとボトムをおそろいにすることで、
ショーパンなのにきちんと感は満載。
白いシャツにジャケット&ショートパンツ。
グレーやネイビーブルーなどのフォーマル感のある色目を選ぶといいかも。
ポイントはジャケットのシルエット。
細身で二つボタンなどを選ぶと、
だらしない感じになるのを防げそうです。
襟周りにコットンのスカーフを合わせてもおしゃれですね。
汗ばむ季節は薄いコットンスカーフが首回りに流れる汗を吸い取ってくれるので、
おしゃれかつ清涼感も増します。
もちろん、靴は通常スーツ着用時に合わせるアイテムで。

このように近頃のショートパンツスタイルは、
カジュアルテイストでもリゾートスタイルでもなく、
通常のパンツスタイルの丈が短くなっただけという感覚でトライしてみてください。

バッグもしっかりした仕立ての革やナイロン素材の、
トートバッグやスタイリッシュなビジネスバッグなど、
あくまでも通常モードのアイテムを持って来るのがおすすめ。

もちろん、遊び心も味わえるのがショートパンツの魅力です。
クールビズと言ってもショートパンツはNGというケースがほとんどでしょうか?
週末のプライベートで楽しんでみてください。
真夏のスタイリングは涼しくおしゃれに。

装うことの迫力

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東京駅近辺での取材の帰り、ちょうどいいので前から行きたかった
「PARIS オートクチュール ー 世界にひとつだけの服」展を観てきました。
会場の三菱一号館美術館は旧三菱銀行のレンガ作りの建物を復元した、
クラシカルなビルの中にあります。
入り口は緑が茂った中庭に面していて、そこはカフェもある優雅なスペース。
数年前に行ったときよりだいぶ樹木が成長していて、
ますますロンドンの一角というたたずまいになっていました。

展覧会の公式HPに掲載された「見どころ」によれば、
「19世紀後半のパリで誕生したオートクチュール(Haute=「高い」「高級」
・Couture=「縫製」「仕立て」の意)は、パリ・クチュール組合の承認する
数少ないブランドにより、顧客の注文に合わせてデザイナー主導で仕立てる
高級服として知られています。
〜中略〜
本展はオートクチュールの始まりから現代に至る歴史を概観するもので、
〜中略〜
時代を映し出す美しいシルエットの数々、刺繍・羽根細工・コサージュなど
脈々と受け継がれる世界最高峰の職人技を、
ドレス、小物、デザイン画、写真など合わせて
およそ130点によりご紹介します」とのこと。
オートクチュールの誕生は意外に新しく19世紀後半。
元祖は英国出身のデザイナー、ウォルト(1825-1895)。
彼が、年2回のコレクション発表や、
服にデザイナーの名入りタグを縫い付けるなど、
オートクチュールの基礎を作ったと言われます。
ウォルトの時代は王侯貴族や富裕層のマダムたちが顧客。
その彼の1898年頃の華麗なイブニング・ケープを皮切りに、
知っている名前だけでもポール・ポワレやシャネル、スキャパレリ、
イヴ・サンローラン、バレンシアガ、ピエール・カルダン、
クリスチャン・ディオール、ジヴァンシィ、クレージュ、パコ・ラバンヌ、
ジャン=ポール・ゴルチエ、クリスチャン・ラクロワ、ウンガロ、アライア
などのデザイナーの豪華絢爛なドレスが続き、
2014年のラフ・シモンズのドレスで閉じてあります。
夜会用のドレスに混じって「室内着」や「イブニングコート」というのも
多数展示されているのですが、
どれもみな億万長者のマダムたちのために、
これでもかと贅を凝らしたものばかりで、
デザインうんぬんというより、素材にどれだけ手間暇かけているかという
素材合戦の様相を呈しています。
(デザインに関してはシャネル、バレンシアガ、スキャパレリなんかが、
さりげなくもドレスそのものが息をしているようなデザインで、
さすがにすごい人たちなんだと)
ドレス全面のビーズ刺しゅうや、シルクで象ったモチーフを
アップリケ状に縫い止めてあるもの、
布地を幾重にも寄せてドレープを形作ったものや、
ラインストーン、羽根などを全面に縫い止めてあるもの。
手練手管のオンパレード、職人さんたちの腕の見せどころ満載なのです。
世界にひとつだけの服を作るために、
デザイナーと職人とマダムたちの財力とが三つ巴になって、
これでもかとパワーを競い合う、モードの戦いなのだと思いました。
表面的には美しくてゴージャスでエレガントでありながら、
三者の情熱や意地が火花を散らして、
その炎がビーズや羽根飾りを深く力強く輝かせているような。
だからこそ、こうして戦火やらなんやらを生き延びて、
100年後のアジアの小都市で艶やかな姿を披露できているのだ、
それだけの魂がそこにあると、しみじみ思わされました。
装うことの執念ともいうべきその精神。
それが形になったものを次々に目撃しながら、
今さらながら迫力ある装いのカッコよさに心打たれ。
いつからか人類は生きることの意味や形を、
装うことで表してきたはず。
鎧や甲が美しいのはそのせいだと思うし、
今だって私たちは勝負服と言って、
いざというときには自分を一番美しく魅力的に、
一番強く理知的に見せてくれる服を選ぶではないか。
はっきり言葉にして意識しないまでも、人はそんな時、
多かれ少なかれ装うことに全神経を注ぐはず。
そしてそんな時に選ばれるのは、オートクチュールとは言わないまでも、
できる限り仕立てや作りのいい高級服ではなかったか?
そんな風習に静かに風穴を開けたのが、
アップルの元CEO、スティーブ・ジョブスでした。
彼は自社の新製品発表会という重要かつ社運を賭けたハレの場に、
いつも黒いタートルネックにジーンズで挑みました。
それが斬新だったから、以来、IT系や家電会社の発表会では、
Tシャツにジーンズ、あるいはクールビズのシーズンでもないのに、
ノーネクタイのスーツ姿で挑むトップが現れました。
なんか、スタイリストとか回りから
「社長、今はこうなんですよお!」と言われてやってる感満載で、
あんまりカッコよくないなあと思います。
スティーブ・ジョブスのは、あれが勝負服だから。
あの人のポリシーの根底にあるのは禅らしいですから。
まったく同じ黒いタートルやTシャツを何枚も持っているらしいし。
ストイックな人がそれを表しているからこそ、
黒タートル&ジーンズがカッコいいわけで。
装うことは自分の生き方の表明。
ドレスアップにしろダウンにしろ、
「私はこんなやつです」というのが自覚の元に表わている人は
カッコいいなあと思います。
そんなこんなで、服作りや着ることに命を賭けていた時代や仕事ぶりを
見ながら「古き佳き時代」という言葉が思い浮かびました。

とはいえ、シャネル・スーツで300万程度と言われ、
贅をこらしたドレスなら天井知らずなオートクチュール。
欧米の大統領夫人や皇太子妃でさえプレタポルテ程度のドレスに身を包む昨今、富裕層の顧客が年々減っているらしく、業界はただいま衰退中。
コレクションごとに注文する顧客は一説によると全世界で約500人程度とのこと。
クリスチャン・ラクロワのような天才デザイナーのメゾンでさえ、
オートクチュール部門は休業中です。
ラクロワはじめ、現存のデザイナーはプレタポルテや香水、
ライセンス契約などが主な収入源と言われています。
そのプレタポルテでさえ、今はファストファッションに押されて苦しい。
激安アパレルショップを見ると、服たちがみんな乱雑に吊り下げられ、
買われる前からみすぼらしさが漂っていて、
燃えるゴミ行きの一時保管倉庫という感じがします。
100年経っても生き残っていそうな魂は感じられない。
やっぱり、ていねいに作られた服を着て暮らしていたいものです。

とにかく、ひさしぶりに服のチカラを見せてもらった展覧会でした。
とはいえ、展覧されたドレスを眺めながら、
室内着でさえ「コレで部屋にいるの?家でも疲れそう」という感想や、
イブニングコートにいたっては背後や幅のボリュームがすごくて、
こんばんわ、と来られても拙宅ではまず玄関から入れそうもなく、
いきなりマダムを門前払いしてしまいそう。
と、内心下世話なツッコミをしながら見るのも楽しい。
GW中はいつもより少し混むかもですが、
丸の内近辺におでかけの方にはおすすめです。

*写真は、会場の入り口前、中庭を美術館上階から見たもの、
そしてミュージアムショップで購入のラクロワのノート。
ココロわしづかみでしたわ。
(横向きのものはクリックすると正しい位置に回転します)

「PARIS オートクチュール—世界に一つだけの服」
〜5/22(日)まで開催中。
10:00~18:00(祝日を除く金曜、会期最終週平日は20:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
月曜休館(但し、祝日と5/2、16は開館)
三菱一号館美術館   当日券 1,700円
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-2
お問い合わせ 03-5777-8600(ハローダイヤル)
アクセス/JR・東京駅徒歩5分、有楽町駅徒歩6分
東京メトロ・千代田線二重橋前駅徒歩3分、有楽町線有楽町駅徒歩6分、丸の内線東京駅徒歩6分
都営三田線日比谷駅徒歩3分