ウミガメのストロー、そしてラベルとしての服

少し前から、エシカルファッションというワードが見聞きされるようになりました。
エシカルとは、倫理上の、とか、道徳的な、という意味ですが、
この場合は、倫理上のデザインの服とか、道徳的なデザインの服と言う意味でありません。
それだとリクルートスーツの代表のようですよね。
エシカルなファッションとは、環境に配慮して、
誰をも、ひいては動物や海洋生物などをも苦しめることなく、
作られているファッションといったようなものでしょうか。
最近、ウミガメが鼻にプラスチックストローを入れてしまって苦しんでいるのを、
取り外して助けるシーンを撮影した動画が公表され話題になりました。
ストローなどのプラスチック素材がどれだけ海洋汚染に影響しているか、
と言う問題が提起されています。
その結果、スターバックスのような世界的コーヒーチェーンが、
2020年までに全世界の店舗でプラスチックストローの使用をやめると宣言しました。
プラスチック以外の、ワラで作った本来のストローが復活するのかもしれませんが、
となると、これだけ多くの人たちが、
世界中のカフェやコーヒーチェーン店で飲み物を飲んでいて、
天然のワラだけで賄えるのか、ほかの代替え案である紙製ストローを足せば賄えるのか?
今度はその紙はどうなるのか? ワラの生産はどうなるのか?
など、また別の問題がいろいろ出てくるような気もします。

さらに、ストローのみならず、プラスチック容器も廃止の動きが出ています。
そこでふと思い出すのは日本のスーパーなどで売られているお弁当や惣菜の容器です。
ご飯を入れる場所、主菜や副菜を入れるところ、
多少汁のある物スペース、デザートのスペースなどが機能的に作られていて、
どれだけメーカー側が切磋琢磨してこの形にたどり着いたのか、
その努力が偲ばれる形の容器です。
これが環境に悪影響ということで使われなくなったら、
この努力はどこに行ってしまうのだろうと、ふと思います。
まぁこれだけのものを作れる人たちなのだからまた別のもので切磋琢磨して
素晴らしいアイデアや技術を見せてくれるのだと思いますが。
ものすごく進化した挙句に、「いや、これはダメなんだよ」と言われてポンとなくなる。
世の荒波を感じたりもします。

ショップで買い物したときに商品を入れてくれるプラスチックバッグも、今や悪役の一人。
例えばH&Mなどは、12月から紙袋に切り替えますと発表しました。
世界のファッションをリードするグローバルファッションブランドとしては、
環境を考えていると言うスタンスを示さなくてはならないのかも知れません。
先日買い物したときに「紙袋はいくらになるんですか」と聞いたら、
ショップの女性スタッフが
「20円です。でも紙袋よりはマイバッグをお持ちいただくことを推奨しております」
と、得意げに答えてくれました。
このお姉さんはコンビニやスーパーに行く時に、ちゃんとマイバッグ持参なんだろうかと
ふと思いました。

原宿ラフォーレで、ヴィヴィアン・ウェストウッド展「GET A LIFE!」
をやっていたので見てきました。
ここ数年の代表的なコレクションからのアイテムが並んでいますが、
この展示のテーマはヴィヴィアンが、
地球環境を考えようと言うことを打ち出したもの。

現在のままの量で温室効果ガスを排出し続けたら、
温暖化によって今後、地球の気温は4℃から5℃上がると言う予想があります。
実際、この100年で地球の気温は5℃上がったという説もあります。
仮に、今から5℃上がった地球では、人類が住めない地域がたくさん出てきて、
今世紀の終わりには10億人程度を残して(現在の地球の総人口は75.3億人)、
ほとんどの人類が絶滅してしまうと言う高温なのだそうです。
今年は特に、世界中が酷暑といえる状態でした。
イタリアでは車が溶け、クエートでは54℃を記録、というニュースもありました。
確かに今、日本各地でも40℃前後になる猛暑が当たり前になってきています。
それが45℃になったら? 街中が熱中症患者で溢れかえりそうです。
そういったことからヴィヴィアンは地球環境を考えるようになったのだとか。

同時に、アフリカの貧しい女性たちに仕事を供給することで自立を促す活動をしている
「エシカル・ファッション・イニシアチブ」という機関と協同で、
ナイロビ最大のスラムであるキベラの人々に、バッグなどの製品づくりを依頼しています。
一時的なチャリティや支援ではなく、仕事を発注することで
持続可能な生活改善に導くことができる、
というのが、その機関やヴィヴィアンの考え方です。
バラックのような工場で現地の人々がヴィヴィアンのバッグを
ミシンがけや手縫いで仕上げている光景が、会場で上映されていました。
工場の一角にランウェイを作り、製作した人たち自ら、バッグを持って踊りながら歩き
みんなが歓声を上げたりして楽しんでいます。
それを楽しそうに眺めるヴィヴィアン。
確かにそれが仕事になって現地の人たちの自立を促すことができれば、
自分でお金を稼いで、住環境への意識も芽生えていきます。
それでこそ環境破壊を推進する業者や企業、組織などに流されない人生を手に入れられる、
たしかにそれがヴィヴィアンのいう「GET A LIFE!」
(人生をつかめ!的な意味でしょうか?)を、実現できる道のひとつかもしれません。
ヴィヴィアンは本展において、地球の70億の人々を、
たった数人のトップの人たちが牛耳っている、彼らが私たちを苦しめている、
世の中を変えるには、みなが声を上げることが大切、というメッセージを発信しています。

もともとパンクの出身で、体制やマジョリティにアンチなスタンスと言うのは、
昔から変わっていない彼女ですが、最近はとにかく環境問題を考え、
実行に移すアクティビストとしても活動しています。
確かにそれは共感できますし、最近の「異常気象がもはや異常でない」状態に
不安を感じてもいます。
でもその前に日本は地震国なので、そっちのほうがより不安ではあります。
今世紀末の殺人的気温上昇より、明日の大地震というのがニッポンの問題かも、
と思ってしまった私は自分勝手な人間でしょうか。

ともあれアフリカの人たちが作ったバッグを、では彼ら自身で買えるかと言うと、
ヴィヴィアンの製品は布製のものでも、多分、
彼らの一か月のお給料分くらいはしそうなので、難しそうです。
ヴィヴィアンのバッグが買えるのは、皮肉なことに彼女が敵対視する、
ひと握りの人々に寄り添って生きる分野の人達。
ヴィヴィアンは「これからの戦いは貧困層と富裕層の間でするものではなく、
環境保護賛成派と反対派の間で起こるもの」といいますし、
また彼女は大量消費も敵としています。
それは高級ブランドの存在価値や存在理由と矛盾するものではないのか?
会場を見て回りながら、そんなことを感じ、考えることの多いひとときでした。

と同時に、ひと昔前なら一流のブランドであれば、どれだけ優秀な職人が、
腕によりをかけてスーパーな技術で作っているかというのが、
上質な製品のセールスポイントのひとつであったはずです。
ところが、ヴィヴィアンのケースを見れば、
アフリカの貧しい人々が技術を覚えて作った製品がセールスポイントになる、
ものづくり環境の支援をしていることが、価値を持つ世の中になったといえます。

あるいは、プロポーション抜群のモデルたちのみならず、
身体的にハンディを抱えたモデルたちがランウェイを歩くコレクションもあります。
最新アイテムを着こなしてポーズをとるモデルが、100kg超え?というような
ダイナマイトボディの人を混ぜているオンラインショップもあります。
近頃はオーバー60歳のシニアのファッションが注目されていたり。

どこに共感するかは別として、デザインやネームバリュー、品質のみでなく、
その制作スタンスも判断基準となる昨今のファッション業界。
ファッションそのものが多様化する時代、つまり、なんでもありな時代。
それはむしろ、これまでにも増して、服がその人の生き方を表す、
リアルな衣=ラベルと化してきているようです。

*写真は3点とも、Vivienne Westwood”GET A LIFE!”展で撮影。

秋に似合うイタリアの生地

いつの間にか肌寒いくらいの陽気になってきました。
汗ばむことなくスーツが着られる季節です。

現在、メンズファッションの基本であり王道であるスーツ。
ジャケットにパンツというこのスタイルが生まれたのは、約150年前の英国です。
それまでの英国ではフロックコートと呼ばれる、
今のモーニングのような、ロングジャケットが紳士服の常識でした。
ところが、ラウンジのソファで葉巻などを楽しむときに、
ロングなジャケットでは裾が邪魔。
というわけで裾が短いラウンジスーツが考案されたのです。
このスーツが現在のスーツの原点だとしたら、
原型ともいえるフォルムが確立したのが約100年前、1920年代のことです。
以来、ジャケットやトラウザーズのシルエット、襟の形、ボタンの位置など、
少しずつ変化を遂げて来ました。
原型が生まれた1920年代から、そこに洒落っ気を加味した1930年代、
いきなり肩幅がはって襟幅も広い、アルカポネ風のマッチョ感が印象的な1940年代、
それまでのマスキュリンなラインを踏襲しつつ、
一定の落ち着きや完成度を見せた1950年代、
そしてビートルズ旋風の影響のように細くてタイト、若々しさが感じられる1960年代、
イヴ・サンローランでさえ、ロンドンのストリートファッションを意識して、
派手で遊びゴコロたっぷりなスーツを打ち出した1970年代。
と見てくると、それ以来、画期的な変革は生まれていない気がします。
あとはその繰り返しとなるデザインを、
その時代ならではのテイストと技術でアレンジしている。
それが男女問わず、今のファッションの現状という気がします。
ただし、レディスやカジュアルに関しては、
1980年代のパンクやボロファッション、グランジというのがあり、
これはファッションの進化の中で過去を振り返る「レトロ」同様、
ハイスピードで進化していく過程の、刺激的な副産物だと思っています。

そんなメンズスーツの三大スタイルといえば、
ご存知ブリティッシュとイタリアン、アメリカンです。
スーツ発祥の地である英国調はカッチリしていてベーシック。
階級社会だった英国では、着ているスーツが階級を表す面もあったので、
より立派できちんとしているように見せる必要があったとか。
肩幅や襟は小さめで、絞り気味のウエストの位置は高め。
これは「王冠を賭けた恋」で知られる英国王、ウインザー公が好んだスタイルで、
身長が170cmと英国人にしては低かった公が、ウエスト位置を高めにすることで、
低さを感じさせないシルエットになっていたとか。
ウインザー公は、1930年代当時、世界的に注目されていたファッションリーダー。
今も「ウインザーノット」「ウインザーカラー」に名を残すほどのおしゃれの達人で、
トラウザーズの裾をWにしたのも公の発案だったと言われています。

一方、イギリスで生まれたスーツが、出身を物語るラベルだったのに比べて、
それを迎え入れたイタリアでは、スーツをよりアーティスティックに
自由なものにリノベーションしたといえます。
ちょっと鎧的意味のある英国スーツに比べて、
イタリアのスーツは着ていて快適であったり、
それに何より大陸男の陽気さやセクシーさを感じさせます。
ボディラインを強調するようなシルエットに、
イタリアンの情熱が現れているような。
ナポリ、ミラノ、クラシコイタリアでちょっとずつ異なりますが、
全体的にしなやかで柔らかく、造形美に長けている気がします。

そして、アメリカンといえば、トラッドスーツ。
ブルックス・ブラザースの定番に代表される、ゆとりあるシルエットのものです。
ボックスシルエットで3ボタン、IVYとも呼ばれるスタイルで、
日本のビジネスマンの「スーツ、ジャケット」姿では、
一番ポピュラーなラインかも知れません。

こうしたスーツの仕上げに必須のアイテムといえば、自分にあったドレスシャツです。
オーダーやセミオーダーのドレスシャツを創りたい!
となったらまず、生地について知っておくのもいいかも。
英国の生地はスーツにあわせてしっかり者。厚みがあり、目も詰まっています。
一方、イタリアの生地はソフトでしなやか。色や柄もバリエーションがあります。
現在、すぐれた生地はほぼイタリアで作られ、
「イタリア三大生地メーカー」としてラインナップされているのが以下の会社。

●アルビニ
1876年設立のイタリアの老舗生地メーカー。
世界最高峰の生地メーカーともいわれるゆえんは、
英国の老舗生地メーカーのデヴィッド&ジョン アンダーソンや、
トーマス・メイソンを現在は傘下におさめていること。
老舗メーカーのクラフト的伝統と最新技術を組み合わせて新しい生地を生み出しているのが強みです。

●テッシトゥーラ・モンティ
1900年代初頭に創業された、老舗生地メーカー。
つねに時代の最新鋭の技術を取り入れたものづくりでセールスを拡大してきました。
おもに最高級コットン「エジプト綿」を使い、原綿から仕上げまでを一貫して社内で生産。
豊富なデザインや色彩に高い評価を得ています。

●オルトリーナ
1888年創業の老舗生地メーカー。最新の技術を取り入れ、すべての工程を自社工場内で行う、
徹底した品質管理で知られています。
デザインや色彩、風合いなどが高く評価され、シャツ生地のトレンドセッターともいえる役割を果たし、イタリアのメンズファッションを牽引してきた存在。
ちなみにオルトリーナは現在、ホームページが閉鎖されていることから、業務を行っていないのではないかと見られています。
デザイナーやスタイリストの信頼があつかったメーカーだけに、その進退が気になります。

●カンクリーニ
そして、上記三大メーカーと並ぶ、もうひとつの名門シャツ生地専門メーカーも注目したいところ。
1925年、イタリア、コモで創業されたカンクリーニです。
海外の一流メゾン御用達のハイクラスな素材を生産し、柔らかくて肌触りなめらか、風合いのよさや上品な光沢感が特長です。また、白無地や織柄はもとより、イタリアならではの色使いやファッション性豊かなテキスタイルも魅力。定番のホワイトならとくに、素材でちがいを見せたい、そんなときにおすすめの生地です。

というわけで、イタリアの生地の魅力は総じて、心地よい風合いと上質な質感、色彩、テキスタイルなどにあり、上質なシャツを身にまとうことで、精神的に豊かな気分を味わえそう、という点でしょうか。
そう、気にいったアイテムに巡り合って、それを着ているときの幸福感や満足感。
無敵な気がしてくるではありませんか?

そんなイタリア生地に触れる絶好のチャンス!
現在、阪急メンズ 大阪で『ITALY FEAR 2018』が開催されています(~ 11/13(火)まで)。
それにともない「土井縫工所 Made To Measure Shirts Shop(常設店)」では、
イタリアを代表する生地ということで、カンクリーニ生地フェアを開催中です。
カンクリーニをお選びのお客さまには、有料オプションを最大3つまでプレゼント!
内容としては、ワンポイント刺繍や、ボタンホールの色を変える、イタリアンカラーやダブルカフスも選べるなど、豊富なオプションが用意されています。
もちろんカンクリーニのほかにも、アルビニやモンティなどのイタリア高級生地ブランドも揃っています。
ぜひこの機会に、イタリアの魅力を実感してください。

プーと魔法のシャツ

最近、「くまのプーさん」の実写版映画を見ました。
実写版と言ってもプーさんはCGですが、本物のぬいぐるみにそっくり。
古いテディベアらしく毛並みもボソボソしていて、全体に汚れも目立ちます。
そんな古いぬいぐるみが動き回りしゃべる様子がCGで表現されていて、
そのリアルさにもびっくり。
スター・ウォーズのようなSF映画で、宇宙船や、そのバトルなど、
スケールの大きなもののCGにはすでに何度も驚かされてきましたが、
ぬいぐるみのような小さくて身近なもののリアルさは
別の驚きをもたらしてくれます。
くまのプーとかつて親友だった少年、クリストファー・ロビン役は、
ユアン・マクレガーです。
1999年に『スター・ウォーズ』新三部作でオビ=ワン・ケノービを演じて以来
世界的なビッグネームにって、今やハリウッドスターの一人といった印象ですが、
もともとはスコットランド出身でイギリスの俳優。
1996年の英国映画『トレイン・スポッティング』での、
スキンヘッドのジャンキー青年が懐かしく思い出されます。

映画は、少年クリストファー・ロビンがプーたちと遊んでいた森を離れて寄宿舎に入り、
長い年月が経ったところからはじまります。
クリストファーはシティと呼ばれるロンドンのオフィス街にある、
高級旅行カバンメーカーの社員であり、営業所らしき部署を仕切る中間管理職。
業績不振から上司に経費削減やリストラなどの合理化を求められ、週末の休み返上で
計画書を作成して週明けの会議で提案しろ、でなきゃこの部署はつぶすと迫られます。
週末は妻子を田舎の別荘に連れて行く約束をしていました。
ああ、どうしたらいいんだと公園のベンチに座って頭を抱え込んでいるとき、
プーと再会し、そこから何度も危機がおとずれ、間一髪で逃れてを繰り返し、
すべて丸くおさまって終わるというディズニーらしい、
ハラハラ・ドキドキ・ちょいちょい泣けて・やがてほっと心温まるストーリーが
スピーディーに展開します。
「プー、僕はもう昔の僕じゃないんだ、僕には大事なことがあるんだ」
というクリストファーにプーは「それは風船より大事なの?」とちっちゃい目で見つめます。
そりゃあ風船も大事だけど、それには働かなくちゃね、と、
毒づきたくなるシーンも多々ありますが。
最後は、発想の転換で会社の企画方針を180度変える画期的なアイデアを思いつき、
社長の賛同を得るクリストファー・ロビン。
この映画の本当のテーマは「発想の転換」ではなかったかと思いました。

そして、この映画の注目すべき点は、クリストファー・ロビンのファッションです。
第二次世界大戦が終わって数年後の物語なので、1950年代初期でしょうか?
忙しいビジネスマンであるクリストファー。
通勤スタイルには英国でトリルバイと呼ばれるフェルトの中折れ帽が必須アイテムです。
ステンカラーのダークグレーのコートに、ダボッとしてウエストをしぼった、
1940年代調のスリーピースのスーツ。
ピークドラペルやノッチドラペルで、やたら襟が大きめのタイプです。
ロングポイント気味のドレスシャツは無地のサックスブルーやロンドンストライプ、
細かいマルチストライプ。
タイは無地や細かい織柄で地味系です。
通勤日はベスト着用ですが、休みの日はダークレッドの手編み風ニットベストを着用。
英国紳士といえば、のニットスタイルです。
ここで思い出すのが、「How To Be An Alien(いかにして外国人になるか?」という本の一説。
50年も前に書かれた本で、英国に移住したハンガリー人エッセイスト、George Mikesが、
英国人やその文化を鋭くおもしろい視線で観察して紹介しているものです。
「ヨーロッパ大陸では人生はゲームだと考えられている。
イギリスでは、サッカーがゲームだと考えられている」とか、
「ヨーロッパ大陸では、人々はいい食事をしているが、
イギリスでは、人々はいいテーブルマナーをしている」
という調子で、皮肉さとおもしろさで英国では半世紀も読みつがれています。
その中で「大陸では日曜というと、誰もが華やかにおしゃれして、
国中が沸き立つけれど、英国ではどんな富裕層でも一番ボロい服を着て、
国中が沈み込む」とあります。
それが真実かどうかは別として、多忙なサラリーマンのニットベストに
休みの日のリラックス感が現れていました。
そして、クリストファー・ロビンのビジネスマンスタイルの仕上げは、
英国名物ともいえる雨傘。彼は革製の通勤カバンに、しっかり装着しています。

かたや日本のサラリーマンの典型スタイルとして、
印象的だったのが日本映画の「終わった人」です。
最近、第42回モントリオール世界映画祭で、主演の舘ひろしが
最優秀男優賞を受賞して話題になりました。
この映画は、仕事一筋だった男が、定年退職後、趣味もなく夢もなく、
そして家庭に居場所もないという嘆きの日々からはじまります。
妻に旅行しようと誘っても妻はパートで忙しく、
そんな暇ないわよとことわられてしまう。
そんな田代壮介の最後の出勤日のスタイルは、
中年太り気味のたるんだボディにブカっとしたスーツ。
ワイドなノッチドラペルで、チェンジポケット付き。
ドレスシャツは濃淡の差があまりないストライプで、
タイはスーツと同系色の小紋模様という無難なスタイルです。
銀行で出世コースに乗れず、子会社に出向したまま定年退職を迎えた
男性の定年の日の装いらしく、よく見ると生地は高級そうですが、
趣味もなく仕事に没頭してきたというライフスタイルが、
ボディラインやスーツのチョイスに現れていて絶妙です。
演じるのがダンディでならしている舘ひろしだから、これだけでウケます。
そして壮介の定年退職直後の日々を表現するのは、これまたゆるいニット。
たるんだおなかを温かく包みこむ抜群の伸縮性です。
そんな壮介ですが、失意の日々から趣味を見つけ、
図書館で出会った宮沢賢治マニアの若い女性に恋心を抱き、
スポーツジムに通いはじめて第二の人生が開けていきます。
そして、ジムで知り合ったIT企業の若き社長に顧問になってくれと誘われて入社。
このときの壮介はチョークストライプの細身のスーツを
さっそうと着こなしています。
しぼったボディラインもスマートで、舘ひろしの本領発揮シーンです。
レジメンタルタイをきりりと結び、しまった腹部にピタッとより沿う白いシャツ。
男の色気全開です。
IT企業社長役の今井翼は、細身のスーツに白いシャツ、もちろんアンタイドです。
壮介の第二の人生やいかに、定年退職とは本当に「終わった」ことなのか?
ストーリーのおもしろさに定評のある内館牧子・原作で、
映画「リング」の田中英雄監督作品なので、見て損のない映画でした。

いずれにしろ、異なる時代の東西のサラリーマンを見ながら、
スーツやドレスシャツは男のエレガントな戦闘服なのだと今更ながら実感。
戦いに重要な魔法のアイテムならぬ、魔法のシャツを選んでくださいね。

写真は、”How To Be An Alien”の表紙(top)と、
下は、「日曜日に一番ボロい服を着るリッチな英国人」の図です。

ポップアップショップにPop in!

西は台風、北は地震と、今年の日本は立て続けの自然災害に見舞われています。
被害に合われたみなさまにお見舞い申し上げます。

先日、仕事の関係で、とあるバンドのライブに行きました。
そのバンドはアルバムやPVのビジュアルなおかつ音に特長があって
PVやアルバムが全米で首位を獲得したりしているそうな。
そのバンドはボーカルの人が透き通るような高音から、
デスボイスのように唸る低音まで、
幅広い音域を縦横無尽に駆使して、まるで天使と悪魔の饗宴さながら。
それを支えるサウンドは、メタルやスラッシュ・メタル的な、ギターリフを多様したラウドな音に
民俗音楽的な音が絡んで、このバンドの音としかいいようのない世界。
カテゴリーにあてはめられないものだからこそ、世界的に評価されて、
海外での活動も多いと聞きます。
国内では武道館クラスの会場からライブハウスまで場所を選ばずライブを
年何回も開催して、なお、多くのファンが詰めかけているとのこと。
私が見た会場は日比谷の国際フォーラムだったのですが、
黒尽くめの人たちがホールを埋め尽くしていて、
ハワイぽい椰子柄のワンピースを着ていた私は、
ノーテンキに紛れ込んだおばちゃんとしか。
でも、見回すと結構、OL ぽい服装のねーさんたちが、
そこここにいて安心したのですが、
曲がはじまったら、なんとおねーさんたち、
ヘドバンし(激しく頭を振り)はじめるじゃありませんか。
涼しい風が吹いてきて急にエアコンが?と思って横を見ると
隣のOL風おねーさんが髪を振り乱して送風していたのでびっくり。
そのOLのおねーさんたちの人生に思いを馳せてしまいました。
ともあれ、2時間ほどのライブの間中、曲が終わると観客は怒号のようなレスポンスで、
体の芯から絞り出しているようなその怒号はほかのアーティストのライブ会場にはまずないもの。
このバンドのライブはアーティストもファンも肉体労働だとしみじみ感心しました。
最後に、ボーカルが観客に向かって「生きてんのか?生きてんのかーーーーーー!!」
と唸ると、観客の怒号はマックスに。
この会場に来ている、この瞬間だけ「生きてる!」と感じているんじゃないか
と思えるほどの積極さです。
その時、私の脳裏に「♪ 私は今、生きている〜う」という松田聖子の歌が鳴り響きました。
ライブを見て感じたのは、人はやっぱり肉体を感じたいのだということ。
ITとかIOTとかAIとかの時代になって、話をしなくても
何を手渡さなくてもモノが手に入り、
システムに乗っていれば生きて行ける毎日に暮らしています。
「勝ち組」とか「負け組」とか言われて、
いつの間にか自分が、知らないうちにレースに参加させられていたのに気づく、
そんな世の中。
流れやシステムに乗って生きていればある意味、楽です。
でも、そこに乗れない、あるいは、乗っていてもなんだか
快適に思えないときももある、人たちもたくさんいる。
システムではなく肉体や生身を感じながら生きることへの郷愁。
このライブ会場に来ると、そんな人たちの思いを感じます。

大分県で小さい男の子が行方不明になったのを救出したスーパーボランティアのおじさんを
世間が称賛したのも、彼が勝ち組とか負け組とか、損得感情から解放された身軽さや
生身を駆使して生きていることへの憧れだったのではないかと思います。

と、ついつい生身をなまけさせている我が身を反省したり。

そして、いつもオンラインで土井縫工所をご愛用いただいている皆様に朗報です!
現在、土井縫工所は阪急メンズ東京でPOP UP SHOP を開催中です。
実際のシャツの生地を手にとったり、スタッフにあれこれ質問してみたり
生身のやりとりでシャツをオーダーするチャンスです。
しかも、デッドストック生地の限定など、掘り出し物もご用意しています。
秋晴れの週末、あるはアフター5や6に、ちょっと立ち寄って(pop in)みてください。
親切・ていねい・誠実なスタッフがお待ちしております!
お早めに!!

以下はスタッフからのメッセージです。

「阪急メンズ東京 9/5(水)~9/11(火)

初日から沢山のお客様にご来店いただき、誠に有難うございます。
今回は特別にインポートのビンテージファブリックを御用意致しております。
数に限りがございますので、ご興味のある方はお早目にご来店下さいませ。

イベント期間中は、通常の価格より¥3,000円オフの
スペシャルプライスでご注文いただける他
今回はヨーロッパ各地の有名インポートブランドの
デッドストック生地を、数量限定でご用意いたしました。

引き続き、クラシックやヴィンテージがキーワードになっていますので、
ぜひこの機会にクラシカルな生地を、現代的なデザインでお楽しみください。

【イベント期間】
阪急メンズ東京 9/5(水)~9/11(火)
阪急メンズ大阪 9/26(水)~10/2(火)

オーダーシャツ     ¥10,800(税込み)~
限定デッドストック生地 ¥12,960(税込み)~
オーダーネクタイ    ¥14,040(税込み)~

皆様のご来店を、心よりお待ちしております。

@hankyu_mens_osaka @hankyu_mens_tokyo
#土井縫工所 #オーダーシャツ #メンズファッション #玉野市 #阪急メンズ館 #阪急メンズ大阪 #阪急メンズ東京 #mensfashion #mensshirt #ordershirt #hankyumens #hankyumensosaka #hankyumenstokyo

服はどこに行ったの?-Where have all the fashion shops gone?-

日々、着々と日が短くなっています。
暑い中にも、そろそろ秋の兆しが見えるこの頃。
チマタのショップには、もうすっかり秋冬の服が並びました。
今年の秋の傾向が見て取れる時季で、
深いブラウンやワインのウールアイテムが新鮮に見えます。
まだまだ実際には着られない陽気ですが、
新しい季節へのアプローチは毎回ワクワクさせてくれるもの。

そんな中、ふとした異変に気づきました。
これまでデパートやショッピングセンターなどは入口をはいると、
まずアパレルがフロントを守っていたはず。
一階はファッション雑貨やハイブランドの海外コスメというデパートもありますが、
いずれにしろファッション系なおかつお財布に厳しいプライスゾーンというのが、
各施設の顔になっていたはず。
それが最近は、エントランス近くに国内外のプチプラコスメを大々的に置き、
これまでアパレルショップがあった位置に、
国内外のオーガニックや自然由来の食品・雑貨を扱うショップや、
海外の高級紅茶ショップなどを配置し、
コスメと食に賭けるSCが増えました。
服はどこに行ったの?
もちろん、上階に行けばアパレルショップが並ぶフロアもありますが、
入り口を入ってすぐの、その館の顔ともいうべき場所のラインナップが、
最近どんどんファッションから雑貨or食品に変化しているのです。
百貨店で気づくのは、それまで館内に2つ3つしかなかったカフェや和風甘味屋が、
各フロアに増設されていること。
人気の店はスペースが拡張されていたりします。
カフェスペース確保のために、それまであった既存のアパレルのショップが消滅しているのです。
では、どんな店がなくなっているかといえば、そこはやっぱり思い出せないくらいのショップ。
売れ行きで貢献していないショップがカフェに取って代わられる時代です。
では、服全般が売れていないのかというと、そういうことではなく、
人気のショップは人が詰めかけ、人々の服への愛情は変わっていないように見えます。
でも、好みの服やショップは、各自すでに決まっているうえ、
オンラインでいくらでも買い物できる昨今。
時代に乗り切れないアイテムを並べた実店舗は、衰退していくほかない。
これはファッションに限らず、すべてに言えることですが。
興味のない服屋を見るよりは、好きな服屋だけを見て、
あとはおいしいお茶やスイーツでひと息つきたいというのが
公私共に忙しいいまどきの消費者の意識なのでしょう。
となると、「服屋を減らしてでも、カフェをご用意してお待ちしております」
というのがユーザーフレンドリーな百貨店/SCというもの。
ですから、あまりトレンドファッションに強くないタイプの百貨店だと、
ファッションフロアはガラ空きなのに、片隅にあるカフェはもちろん、
各階のカフェはもれなく行列ができているという、
不思議な現象が起きています。

オーガニック食品やこだわりの地方名産品を扱う、
スタイリッシュなショップも増えました。
『きゃらぶき』がおしゃれなパッケージの瓶詰で200g、2000円くらいしたりします。
近所のスーパーなら300円くらいで買えるものです。
そうした店ではキヌアをはじめとするスーパーフードも勢揃い。
オリーブオイルや亜麻仁油をはじめとするオイル類や
塩だって岩塩から海塩まで、白いの茶色いのピンク色だの勢揃い。
野菜はもちろんオーガニックですし、パンは米粉使用のグルテンフリーだったり。
それらは毎朝新聞の折込チラシや、はたまたスマホでデジタルチラシをチェックして、
10円でも安いレタスを求めんとする食生活とは対極にある、
ヘルシーライフを送る人たちのためのものでしょうか?
いや、案外、両者は微妙にクロスしていると思います。
10円でも安い『朝採れレタス』を使ったサラダを『ゲランドの塩』
(フランス・ブルターニュ半島南部のゲランドの塩田で伝統製法で作られる海塩)
で食べたい、という人は結構多いはずです。
というわけで、フロアからファッションが消えている分、
食がファッション化しているのが実情です。
これだけインスタなどで「これ食べました」「うちではこんなん食べてます」発信が
ブームなのですから、今や何を食べているかが、何を着ているかと同等の意味をなすのでしょう。

そんな昨今、ではファッションはどこに行ったかといえば、人気の実店舗以外は、
大部分はオンラインに生存しているのですね、きっと。
好きな時間に好きな服を、ポチッとできる暮らし。
それは自分の好みが確率している時代ならではという気がします。

シャツをオーダーして、夏のスカルプケアを!


猛暑に豪雨、台風と、今年の夏は本当に手強い。
次から次へと襲ってくる自然の猛威に悲鳴を上げている列島です。
外回りなどが多い仕事の人には酷な年になってしまいました。

暑くなると、カラダは汗をかいて皮膚から熱を逃すことで
体温の上昇を抑えているそうです。
それは頭の皮膚も同じで、ほかの部分の肌同様、汗をたくさんかいています。
汗をかくと同時に、肌は皮脂をたくさん分泌しているそうで、
それが皮脂膜というバリアになって、雑菌や紫外線から肌を守ってくれるのだそうです。
頭皮に生じた皮脂膜は、乾燥を防ぐ役割をし、これがないと頭皮に潤いがなくなって、
フケやかゆみの原因になるとか。
夏場はたくさん汗をかき、皮脂が頭皮に行き渡りますが、汗がひいても皮脂は残る。
たっぷりの皮脂は照りつける強い紫外線によって劣化して固まり、毛穴を詰まらせます。
それによって抜け毛が増えたり、髪が根本から元気に立ち上がらなくなったり、
ベチョッとしたヘアに、スタイリングもままならず、という状態を招きます。
毛穴の詰まりが常態化すると髪が細くなるので、
生まれつき剛毛極太でそれが悩みという人以外、これまた困ったものです。
そうでなくても夏のヘアおよび頭皮は、強い日差しに焼けて、ダメージを受けているのに、
肌のケアはするけど頭皮はとくに、という人も多いのではないでしょうか?
日焼け止めクリームで肌を守っている女子だって、とくに頭皮には何も塗っていないでしょうし。
肌同様、頭皮もいたわってあげましょう。
今年のような猛暑の年はとくに、スカルプケアが必須です。

夏の頭皮に大切なのは、傷んだ肌に優しいシャンプー剤を使って、
皮脂をただしく洗い流すこと。
さらに、頭皮そのものをケアできるシャンプーを選ぶこと。
加えて、香りがよく癒やされるシャンプーなら理想的です。
昼間の紫外線のダメージや暑さによる疲れを
シャンプーできれいさっぱりリセットしましょう。

服のスタイリング同様、ヘアのスタイリングもこだわる
土井縫工所ユーザーの方々に、ここでうれしいお知らせがあります。

「VITALISM×土井縫工所 
頑張る夏のビジネスマンへ! 
サマー・リフレッシュ・キャンペーン」

シャツにこだわる方の髪と頭皮をリフレッシュするコラボキャンペーンの開催です。
期間中に土井縫工所のシャツをご注文された方、先着500名様に、
頭皮環境を健康に保つスカルプケアシャンプー
「VITALISM(バイタリズム)」のトライアルキットをプレゼントいたします。

「VITALISM(バイタリズム)」とは?

髪と頭皮の専門医でテレビなどでもおなじみの、表参道スキンケアクリニック 友利新ドクターが
「健康な毛髪のために必要な頭皮環境」に着目し、
研究を重ねて誕生した新発想のダブルケアシャンプーです。
頭皮と毛髪を同時にケアできるという「ピロミジロール※」を日本で初めて配合しています。
ヘアケアとスカルプケアを同時にカバーすることで、
頭皮環境の健康を保つ予防ケアを行うことができます。
ノンシリコンでありながら泡立ちが豊かで、
疲れを癒やしリラクゼーションに誘うベルガモットやグリーンの香りが特長です。

いったいピロミジロールとはなに?

ヘアケア・スキンケア化粧品の研究開発・製造を行う、プロテックスジャパン社が開発した新成分です。
一年以上の基礎研究と成分複合実験を繰り返し、2013年に誕生しました。
「ピロリジニルジアミノピリミジンオキシド」「サッカロミセス溶解質エキス」「キハダ樹皮エキス」
「水溶性コラーゲン」「加水分解コラーゲン」の有用成分を含む5つの成分で調合され、
毛髪と頭皮を同時にケアできる新成分として知られています。
このピロミジロールを日本で初めて成分として採用したのがバイタリズムシリーズです。

【MEN’S CLUB・コスメ大賞スカルプシャンプー部門】で4年連続第1位を獲得した製品で、
ヘアケアとスカルプケアが同時にできるだけでなく、
ベビー用シャンプーにも使われるマイルドな洗浄剤を使用しているので、仕上がりがとてもなめらか。
ハーブを基調としたナチュラルな香りで気持ちもリフレッシュできます。
この機会にぜひ、酷暑の夏をスマートに過ごせるシャツをオーダーしてトライアルキットをゲットし、
シャツもヘアもすっきりリフレッシュしてみませんか?

【キャンペーン】

期間:2018年8月1日(水)~
 
オーダーシャツ1枚以上お買い上げの方の先着500名様に、
 
頭皮と髪のダブルケアシャンプー「バイタリズム」の
シャンプーコンディショナートライアルキット(各10ml) 
をプレゼントいたします。
 
*お買い上げいただいた製品といっしょに発送いたします。
*1オーダーに
つき1セットのプレゼントとなります。
 
*トライアルキットはなくなり次第終了とさせていただきます。
 
キャンペーン特設サイト:www.doihks.jp/campaign/vitalism_campaign.html

プレゼント:バイタリズムトライアルサンプルセット
男性向けシャンプーとコンディショナーのトライアルセット
容量:スカルプケアシャンプーM 10mL&&コンディショナーM 10mL

【公式HP】 http://vitalism.jp/
【公式Facebook】 https://www.facebook.com/vitalism2017/
【公式Instagram】 https://www.instagram.com/vitalism_official/

トップ画像は、土井縫工所のシャツと、実際の製品。
スタイリッシュなデザインで、バスルームのインテリアをグレードアップしてくれそう。

アンチスタイリッシュにスタイルを打ち出す


連日の猛暑で「危険な暑さ」という表現を
ひんぱんに見聞きします。
熱中症で救急搬送される人の数が過去最高なのだそうです。
最高気温40℃を記録した地域もあり、もはやお風呂に入っている状態。
この異常気象は日本のみでなく、世界各地で起こっているらしく、
インドではガンジス川の水位が下がり川底が露出したり、
北極では氷が溶けてしろくまの居場所がなくなっているといいます。
えらいこっちゃ、環境保護とかなんかしなきゃ!と頭ではわかっていても、
やはり自分の体から北極は遠かった。
けれど、もう足元に、指先に、環境破壊が迫っているのを感じます。
私たちが住んでいるところは、もう以前とは違うのだと、
列島を襲う豪雨や異常な猛暑に、思い知らされる日々です。

そんな昨今、気になるのが自分のニオイ。
たとえば電車や街なかで、んぷ! と思う人と隣り合わせてしまったりするたびに、
我が身を振り返る日々。
この暑さで外を歩けば1分で汗だくですから、
そりゃあ、ぷーん、となるのも無理はありません。
どんだけクサイのか自分、と思いつつも自分ではわからないので、
折につけデオドラントシートで首まわりやらなんやらを拭き取っています。
先日、エレベーターで隣り合った若い男性は、爽やかな柑橘系の香りがしました。
汗臭さとオードトワレなどの香りが混じり合うのもナンですが、
爽やかな香りであれば涼し気な感じがします。
何かつける前に汗をよく拭き取っておく必要がありますが。

話は少しそれますが、少し前に公開された「犬ケ島」という映画。
登場人物や犬たちはすべて人形でできていて、それを少しずつ動かして撮影する、
ストップモーション・ア二メーションと呼ばれる作品です。
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』や『ダージリン急行』、
『グランド・ブタペスト・ホテル』といった、ちょっとレトロでキッチュで、
とにかく強烈に個性的&グラフィカルな作風で知られる
ウェス・アンダーソン監督が撮った映画で、
相変わらずすこぶるグラフィカルで見応えがありました。
この人の映像はただ絵的にグラフィカルというのでなく、
中心に情念のようなものや人間臭さがあるので、
デザインに血が通って肉付けされて、それがすこぶる味わい深く、
目もココロもは釘付けになりグイグイ引き込まれます。
本作のストーリーは狂犬病のようなドッグ病が蔓延したことを理由に、
猫派の市長が犬を飼うことを禁止し、市民が飼っていた犬は残らず
ゴミの島に隔離されてしまい、さらにその犬たちを屠殺する計画もあるという。
主人公の少年アタリは小型飛行機で単身島に乗り込み、愛犬を探すとともに
ほかの高校生たちと連携し、ドッグ病が実は市長の策略であることを暴き、
市長の暴挙から島や市、人や犬たちを解放するというストーリー。
第68回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞しました。
人形とは思えない繊細な表情や画面デザインのおもしろさと
ドラマティックな音でぐんぐん引き込まれる映画ですが、
舞台が日本の架空都市メガ崎市で、当然、人も日本人という設定も興味深い。
監督のウェス・アンダーソンが日本好きだから、らしいのですが、
声優にオノ・ヨーコや渡辺謙、夏木マリ、野田洋次郎(RADWINPS)、
UAと村上淳の息子、村上虹郎も出ていてそれも注目です。
そして、犬たちの声はすべて英語圏の俳優で、
それが全員おっさんぽくて、そこもまたおもしろい。
日本だったら人気の声優はみんなイケメンか、
イケメンに聞こえるセクシーボイスだったりして、
アニメを見ていてもメインキャラクターは全員、
イケメンしか思いうかばない声です。
しかもアニメといえば独特のオーバーな口調が常識ですが、
この「犬ケ島」では、冴えないおっさんしか思いうかばない声の犬たちが
ボソボソと抑揚のない口調で話しているので、それもこの映画の魅力です。
そういえばあのピーター・ラビットの映画版も、
ピーターの声はイケメンでも若々しくもない、太目のおっさん俳優が演じていて、
そちらもすこぶるいい味が出ていました。
ちなみにピーター・ラビットの日本語吹き替え版の声は千葉雄大。
少年ぽさの残るイケメンです。
西洋と東洋の価値観の違いを感じさせます。

さて、このウェス・アンダーソン監督、過去に何度か、
あのプラダとコラボで映像作品を撮っています。
ひとつは「カステロ・カヴァルカンティ(2013年)」
時代設定は1955年、舞台はイタリアの小さな町の夜。
広場に面して小さなバーがあり、屋外に出したテーブルで
近所の親父さんたちが飲んでいる。
そこにカーレースの車が何台もやってきて粉塵を上げて通り過ぎていく。
すると一台のレースカーが広場のキリスト像に衝突。
ドライバーに怪我はなかったけれど、車は駄目になってレースを続けられなくなり、
親父たちのテーブルに混ざって飲み始めたドライバー、
1人の親父が親戚だったことが判明します。
なんてこったい、俺がずっと会いたかった人だ!
というわけで、ここで事故に合わなければ親戚に会うこともなく、
偶然は必然だ、というようなことがテーマの、8分間のショートフィルム。
全体のトーンや、チネチッタというイタリアの撮影所につくられたセットが、
この監督の世界観そのものでドラマティックです。
プラダとコラボということですが、ドライバーのレーシングスーツの背中に
PRADAと入っているのみで、あとは監督のいつもの世界。
ファッショナブルでもモードぽくもありません。
それが逆に、プラダって粋な会社だと思わせます。
プラダはその後、「キャンディ・ロー 」というフレグランスのショートフィルムも彼に依頼。
さらに、2016年にはプラダ財団が運営するアート複合施設「プラダ財団ミラノ」内に
監督がインテリアをデザインした「バール・ルーチェ」がオープン。
まさに監督の、レトロ&キッチュな映画のような世界に浸れる店です。
50年代のイタリア映画界の巨匠、ビットリオ・デ・シーカなどの映像も参考にしているそうで、
ウェスのファンのみならず50年代のイタリア映画好きなら狂喜乱舞しそうな店。
2016年にはH&Mのクリスマスキャンペーンのショートフィルムも手がけていますが、
これが列車内が舞台で、監督の作品である「ダージリン急行」が
もう少しスマートになってアクが抜けた感じのビジュアル。
でも、これまたとくにファッショナブルな人やモノが登場するわけでもなく、
ファッションがファッションのみではなく、ライフスタイルであるということ、
ひとつのトレンドやアイテムだけをアピールする時代ではないということを、
これらの映像を選んだブランドが物語っています。

ちなみに、キャンディ・ローの姉妹品、
キャンディというオードトワレがうちにあったので試しに手首に吹きかけてみました。
好みのバニラ系でいい香り。と思いつつ、さて仕事しましょと思ったら。

くっさーーーーー。

くさくて仕事にならん。
まさに香害。やはりフレグランスはリフレッシュしたいときや
遊びたいときに楽しむもので、
地味な仕事には向かないとキモに命じました。

ところで、汗だくでニオイが気になるときは、
ほんの少し香りのあるデオドラントシートで汗をぬぐってみることをおすすめします。
嫌味なほど、あるいは香害になるほどキツくなく、
かすかにいい香りのするシートを使えば、
夏でも涼しげで爽やかな印象になるはずです。
暑さ厳しき折、ご自愛ください。

*写真は、「犬ケ島」のパンフレットです。
このワンコたちがどいつもこいつもクセモノ。
中央下段が主人公の少年、小林アタリ。両隣がカギを握る存在。
アタリの上がセクシーな美女犬、ナツメグ。
犬たちの前職はチャンピオンドッグや曲芸のスターなどさまざま。

この夏イチバン暑いスタイルの祭典に参戦


ワールドカップでの西野ジャパンの大健闘に日本中が沸いています。
そんな暑いプレ夏。
今季もメンズファッションの祭典的展示会、PITTI UOMOが、
イタリア・フィレンツェで、6/12~15にわたり開催されました。

今回、PITTIが掲げたテーマは「PITTI OPTICAL POWER」
OPTICALとは、視覚の、視覚的な/光学の、光学上の/可視光線の、可視光で見える、
などを意味する英語の形容詞です。
ストライプを互い違いに組み合わせたり、波型にウェーブを持たせることで
ただのストライプではなくなり、
視覚的効果の高いヴィジュアルができあがります。
1960年代中期に、OPTIKAL ART=OP ARTとしてひとつのジャンルが誕生し、
ヴィクトル・ヴァザルリのような代表的なアーティストを生み出しています。
以来、ファッションでもオプティカル的な柄は、
個性的なモチーフとして繰り返し使われてきました。
最近はオプティカルなモチーフと泰西名画に登場するような、
クラシカルな花柄をあわせたりするのがトレンドになっています。

今回、PITTIの会場周辺はオプティカルなモチーフを打ち出した
デコレーションが施され、テーマの頭文字をとった「POP」というワードの効果も相まって、
心弾むようなポップで楽しげな雰囲気。
一筋縄ではいかない世界情勢の心配な要素を打ち破ろうとするかのような、
イタリアファンション業界の気概を感じさせます。
ファッションは、楽しみを与えてくれるアミューズメントであるとともに、
心を強くしてくれるソフトなアーマー(鎧)のようなもの。
PITTIのような世界的な展示会には、
チャーミングでスタイリッシュなアーマーをまとった戦士たちが世界各国から集結します。
もちろん、我らが土井縫工所チームも参戦しました。
さっそく、代表メンバーのPITTI視察レポをお送りいたします。

「今回は2019年春夏に向けての展示です。
SSということもあって、全体的にカジュアルな傾向が見られました。
昨年のサファリ、ミリタリー調に加え、オープンシャツやプルオーバーなど、
リラックス感のあるリゾートスタイルの提案が目立ちました。
素材に関しても、サファリやリゾートなどの流れから、各社ともリネンやコットンリネンを提案していました。
柄は昨年に続き、英国調を中心としたチェックのほか、今年は特にプリントの提案が目立っていました。定番の小紋やフラワー柄はじめ、大柄のトロピカルなリゾート柄やボタニカル調など、動きがあって自然味あふれるテキスタイルが打ち出されていました。
また、太幅のストライプをプリントで表現した柄も、各社で取り扱われていたのが印象にあります。
カラーに関しては、ドレスはやはり基本的にホワイトかブルー系ですね。
カジュアルはブルー系に加え、ベージュ系やブラウン系が、すっかり定番になった様子です。
加えて、前回、目立ったグリーン系、オレンジ系、レッド・ピンク系は、今回も継続して見られます。
特に、イエロー・マスタード系の存在が印象的でした。メインカラーとアクセントカラーともども、強く打ち出しているブランドが多くありました。
SSでもAWと変わらず、メインの色味はグレイッシュで落ち着いているものでした。
マスタードやカーキ、スモーキーピンク、エクリュなど、スモーキーな処理で上品なテイストになっています。
一方、プリントはSSらしい鮮やかなマルチカラーストライプなども見られました。
ジャケットやパンツもカジュアルでリラックス感を持たせつつも、崩しすぎない仕立てや色使い。
全体的な着こなしは、クラシックで上品にまとめるという流れです。
これは前回までと同様のラインで、2019年SSも継続すると見られます」

以上、土井縫工所・日本代表のPITTI視察報告です。
毎回、雑誌やネットのファッションページを賑わせるPITTIの洒落男たち。
土井縫工所メンバーも、イタリアンやフレンチ、ブリティッシュのダンディーたちと
互角に張り合う洒落男ぶりです。
ドレスとカジュアル、両面のスタイリングを実践しています。

※写真は、
上段2点/会場周辺の光景
中段3点/伊達男たち。ペアルックもこれならスタイリッシュ。
下段左/土井縫工所代表メンバー・トリオの勇姿
下段/PITTI運営スタッフの公式Tシャツ。メガネもオプティカルモチーフ。足元もスペルガのオプティカル柄のスニーカーでした。

なかなか話せるヤツ。モフモフなAI 希望


すでに沖縄から四国くらいまでが梅雨入りしたといいます。
関東はまだ宣言が出されていないのですが、
曇り空が続いています。
今にも降り出しそうな空模様に、出かける前、
降られてもいい靴でいこうかどうか迷いました。
グーグルに、「今日、雨降る?」と聞いてみたら、
「今日、〇〇(私の住んでいる小さな街の名前です)は、雨は降りません、
最高気温は26度です」
と教えてくれました。
ほんまかいな、とちょっと思いつつも、安心して布靴ででかけましたが、
実際、雨は降らず。
最近、車と会話するテレビCMがあります。
現在はまだ、音声アシスタントAIがドライバーと会話するくらいですが、
あと何年かしたら、車に乗って「海が見えるカフェに行きたい」といえば、
車が自動運転して、連れて行ってくれる時代がきます。
高齢化社会で人生百年時代と言われる昨今、未来に期待が膨らみます。

一時期よく言われていた”IT”は、情報技術(information technology)を意味しますが、
代わって近頃よく目にするのが”IoT” (internet of things)です。
モノがすべてインターネットにつながる状況のことを意味していて、
今ならさしずめ「音楽かけて」といえば、かけてくれるスマートスピーカーなどが代表的です。
音楽なんて自分で選んでかければいいし、
電気も自分で消すこともいとわない(スマートスピーカーは電気も消してくれる)。
ただ、いつも思うのは、ぬいぐるみとかに会話機能を持たせられるAI装置を、
あと付けできるようになればいいのに、ということ。
AI搭載のロボットは、みんなツルツルピカピカしていて、
それはそれでかわいいのでしょうけれど、
モフモフした感触や触って柔らかいモノ好きな人にはどうにも。
お気に入りのモフモフしたぬいぐるみに、AIが搭載できて会話できれば、
こんなに都合のいいことはないと思うのですが。
心を癒やすための犬や猫をセラピーアニマルといったりしますが、
高齢の方などは、実際に動物を飼うとなると制約もあったり手間もかかります。
触り心地のいい、抱きしめればギュッという感触のある、
モフモフのぬいぐるみは話し相手に最適だと思います。

ぬいぐるみは趣味じゃないし、という方には、
お気に入りのスーツやバッグに、会話機能をあと付けするとか。
「あら?今日ちょっと疲れてます?履き方、元気ないっすよ」なんてズボンに言われたり、
「スマホ、忘れてます!今日は深夜帰宅予定ですから、充電器も持ったほうがいいですよ」
なんてバッグに怒られたり。
商品名は「おしゃべり番長」。どこかベンチャー企業が開発してくれないですかね。

必需品としては、私の好みを知り尽くしたAIクローゼットの登場を待ちたいところ。
それの前に立てば、その日の予定に合わせて最適な服を選んでくれて、
(もちろん、自分で選ぶようなコーディネートであることが必須。
ときたま誤作動して、キテレツなカッコになったりしたら、
それはそれでウケるけれど、そこはやっぱりやり直していただきたい)
クローゼットの中から、ここが肝心なのですが、
さっとワンセットを取り出してくれる。
一日の終りには、脱いだ服をクローゼットの所定の位置に置けば、
クローゼット内にセットされたロボットアームが、
服をハンガーにかけるなり畳んで棚部分に設置してくれる。
クリーニングや洗濯が必要だとAIが判断したものは、
ポッとクローゼット外に放り出されたりして。
とにかくうちのような混沌としたクローゼットに頭を突っ込み、
「あのシャツ、どこ?ないないない、
あれが着たいのに、わー、ないからもうこっちでいいや」
的な事態に陥りやすい人にとっては、こんなAIクローゼットに、
服を管理してもらったら本当に大助かりです。
商品名は「クローゼット奉行」。どこかベンチャー企業が開発してくれないですかね。

*写真は、某ショッピングセンターにいた身長170cmくらいの大きなテディベア。
この子が話したらなかなかのものです。

元気になれる料理や服を見つけることがポイント


先日、近所のTSUTAYAが閉店してしまいました。
「20年間ありがとうございました」
という貼り紙をガラス戸に残して。
オープン当時はCDやDVDをレンタルするために、毎週のように行っていました。
映画館に行くまでもないけれど観たい映画や、
観たかったけれど見逃していた過去の映画、
買うほどではないけれど聴きたいアルバム、
そんなものをどれだけ借りたでしょう。
母や、当時、小学校低学年だった娘は、
欲しいものを店のリクエストカードに書いて出したりするほどの
ヘビーユーザーでした。
そのうち、you-tubeが生まれ、
100円単位で音源をダウンロードできる音楽配信サービスが生まれ、
月額1000円以下で映画やドラマが見放題の動画配信サービスが生まれ、
時代は、「ちょっと聴きたい、観たい」という、「ちょっと」くらいの欲求を、
TSUTAYA以外で満たせるようになりました。
考えてみたら、ここ10年くらい、TSUTAYAにDVDやCDを借りに行くことも
なくなっていたと気づきました。
最後に借りたのは、インタビューするための、とあるミュージシャン&俳優さんの
CDだったなあと懐かしく思い出しました。
閉店前に偶然行ったときは、小売用のCDやDVDコーナーがなくなっていて、
コミックが並んでいたので、それはそれで時代が変わったと思っていたのですが、
ついに閉店してしまうとは。
一方、都心のSCなどに入っているTSUTAYA ✕ スターバックスの
ブックカフェはいつも満員で空いている席を探すのが大変なほど。
うちの近所のTSUTAYAも大きいので、ブックカフェに模様替えしてくれる日を
心待ちにいていたのですが、おしゃれな街ではないので無理な話でした。
ともあれ、長年親しんできた店がなくなるのは、
過去の優しい記憶が遠のいて行くようで寂しい気持ちになります。
母も、小学生の娘も今はもういません。
母は2年前に亡くなり、娘は20代の大人になってしまいました。
同系列の店舗が少し形を変えて大繁盛しているのになあ、と思うと、
残念感もひとしお。

TSUTAYAや個人経営の書店などが閉店するのは、
音源や動画の配信サービスやネット通販の影響が大きいし、
それは仕方がないのかと思うのですが、
その一方、最近よく聞くのは、
ポリシーのある個人経営の喫茶店やレストランはつぶれないという話。
いくら近所にチェーン店の喫茶店やレストランができても、
長年、近隣の住民の舌や胃袋をつかんできた味は、取替がきかないので、ということ。
やっぱりファミレスと老舗キッチンでは、ハンバーグひとつとっても
全然味が違います。
4年ほど前に、偶然入ったイタリアンレストランで、
隣に座っていた老婦人のお客さんが帰り際、オーナーシェフのおじさんに
「じゃあ、また今度、いつ来れるかわからないけど、
マスター、がっばっててよね。絶対また来るから。
ここに来てこれ食べるのを長生きの目標にしてるんだから」と。
話の内容では、昔、この近所に住んでいて、しょっちゅう来ていたものの、
遠方の地方に引っ越して以来、なかなか来れなくなってしまったらしい。
それでも東京にくるたび、想い出の味を求めてやってくる。
もちろん、記憶の味は美化されるとはいえ、
それでも久しぶりに食べてみて、もし変わってしまっていたら、
もうそれでおしまい。
いくらそれまでおいしくても、一度ダメだったら、人はすぐに離れてしまう。
そしてもう戻ってこない。
それは、「予約の取れない店」のオーナーシェフの方々が異口同音に口にする言葉です。
それくらい、おいしいお店とお客さんとの関係は、
真剣勝負、一期一会、の間柄といえます。
やっぱり、チェーン店のマニュアルが作り上げる味ではなく、
オーナーシェフが生み出した、その人だけが作る味という強みなんですね。

最近、新しいカフェに行くと、コースターやレシートに
「Thank You!」とか「Have a nice Tea」とか手書きで書いてあったりします。
ハートやスマイルマークのイラストが添えられていたり。
これも、人と人とのふれあいを大事にしようという作戦なでしょう。

そういえば、日本を代表する総合商社のテレビコマーシャルの宣伝コピーが、
「一人の商人」という。
巨大な商社を矮小化して「個人のつながり」をアピールしています。
大手流通グループや大手飲食店チェーンが経営する店舗ばかりが林立し、
個人商店が激減している昨今。
こんな時代だからこそ個人のチカラが試されているのでしょうし、
誠実で情熱的かつ魅力的な個人商店は、時代の荒波にも負けず、
海を渡って行けるのかも知れません。

最近はテレビのようなマスメディアにあまり人気がなくて、
you-tubeやニコニコ動画のようなものをワカモノたちは支持しています。
それも、半ば素人っぽいヒトが芸を見せたり解説していたり。
有名人もいれば、近所のスーパーや家電量販店のお兄さんもいます。
そうしたヒトたちが語りかけてくる世界は、
ちょっとマンツーマンであるような錯覚を持たせてくれます。
テレビに出てくるアイドルではなく、自分たちしか知らない地下アイドルに
夢中になる人たちや、あまりorほとんど知られていない役者さんたちが
登場する芝居やミュージカルの舞台に通い詰める人たち。
巨大組織化されてマニュアル化されたものでなく、
みんなヒト肌を求めてしまう時代なのかも知れません。
マニュアル化されたものはどこでもいつでも誰でも手に入れられる。
でも、個人のヒト肌は、そのときそこにいるヒトでないと触れることはできない。
それはかなりスリリングで特権的と思わせてくれる体験なのだと思います。
固定客のいるレストランや舞台に、遠方からでもヒトが通うのは、
そこでしか味わえない料理や世界観があるから。
作り手のエネルギーを味わいたくてヒトは通い、
作り手のほうも顧客からエネルギーをもらう。
理想的な循環によって互いに前に進んでいけるのかも。

写真はうちから電車で15分くらいのところにある
チェコ料理店のメニューです。
ビーツのミックスサラダとカマンベールチーズのマリネ。
これがめちゃくちゃウマイ!
メインディッシュのプレートも取り皿もこじんまりしていて、
トレンド最先端のレストランのような、広大な皿に前菜やメインがちんまり、
という感じでないところも家庭的で好感持てます。
ここにしかない味が恋しくなって、気持ちが疲れると行きたくなります。
そういう味と、そういう音楽と、そういう服に出会えれば、
多少気持ちが折れそうになっても、前に進んで行ける気がします。
もちろん、その3つのワードは、ヒトそれそれちがいましょうけれど、
ほかにはないと思えるものを自分で見つけて味わって元気になれるヒトは、
とても幸運だと思うのです。